鈴木雅明(指揮) バッハ・コレギウム・ジャパン 「第九」「エリアス」

一年の締めくくりと門出に、ピリオド楽器の精鋭たちによる劇的な2作を

鈴木雅明
C)Marco Borggreve
 今年、コロナ禍の中で鈴木雅明と鈴木優人はピリオド楽器のオーケストラと合唱団バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)や様々なオーケストラを指揮して日本の音楽界を大いに盛り上げてくれた。彼らの活躍はまだまだ続く。鈴木雅明とBCJによる、年末の「第九」と1月の「エリアス」だ。 

 BCJは、ここ数年はレパートリーを古典派に拡大し、2017年にベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」、19年に「第九」を取り上げ、彼らならではの清新な魅力に溢れた演奏を聴かせてくれた。

 19世紀初頭の楽器は現代のそれに比べて各々の性格がより際立ち、しかも全体の響きの透明度が高いのでベートーヴェンが拘り抜いた細部の表現が聴き取れる。それは昨年の「第九」も同様だった。冒頭付点リズムを鋭く強調し、速めのテンポとよどみない音楽の流れでクライマックスの築き方が明快。第2楽章は軽やかで繊細な発音が人のお喋りのようだし、第3楽章のガット弦の温かなカンタービレの美しさは比類ない。終楽章もナチュラル・トランペットを伴うファンファーレが圧巻。そしてドイツ語の歌詞に即した情感が意識される少数精鋭の合唱など、筆者がこれまで聴いてきたピリオド楽器による「第九」の中でも屈指の名演だった。今回は森麻季、林美智子、櫻田亮、加耒徹と、BCJと数々の公演をともにしてきた歌手たちとの共演である。前回聴き逃した人は、あなたの知らない「第九」と出逢える好機となるに違いない。

 1月のメンデルスゾーンの「エリアス」も聴き逃せない。鈴木雅明はかねてから19世紀におけるバッハ復活の立役者メンデルスゾーンの2大宗教曲「パウルス」と「エリアス」に深い関心を寄せ、12年に東京オペラシティで「パウルス」を披露した。それに続くのが今度の「エリアス」だが、初めての取り組みではない。18年にライプツィヒのゲヴァントハウスホールで演奏し、「鈴木雅明の完璧な音楽劇作法(ドラマトゥルギー)」「慎ましくて感じの良い音楽という従来のメンデルスゾーンのイメージを超克」(ライプツィヒ国民新聞)と絶賛された。

 「エリアス」は旧約聖書『列王記』の、異教を信仰する王に苦しめられるユダヤ教徒のために戦った預言者エリアス(エリヤ)の物語である。冒頭エリアスの叫びと序曲に始まり、異教徒集団との対決とエリアスの勝利。王から命を狙われて逃亡、火の馬車で昇天するところまでを、迫真に満ちた合唱や魅力的なアリア、数々の重唱で聴かせる。鈴木雅明は同曲を、新旧約聖書を超越した大きな視野から生まれた作品として捉えていて、その音楽には自らユダヤ人として酷い差別を受けたに違いないメンデルスゾーンが、苦悩を克服した末に獲得した「真の高貴さ」があるという。鈴木雅明とBCJ、ピリオド楽器との多くの共演経験を持つ歌手たちによる「エリアス」とともに新たな年の門出を祝おう。
文:那須田 務
(ぶらあぼ2021年1月号より)

ベートーヴェン生誕250年記念 バッハ・コレギウム・ジャパン《第九》
2020.12/27(日)14:00 18:00 東京オペラシティ コンサートホール

鈴木雅明 指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン メンデルスゾーン《エリアス》
2021.1/17(日)15:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp