2021年・第19回東京国際音楽コンクール〈指揮〉会見レポート

審査委員長に尾高忠明が就任、
「いま器用な人ではなく、これから伸びそうな才能」を評価のポイントに

尾高忠明
写真提供:民主音楽協会
 一般財団法人民主音楽協会(民音)が主催する東京国際音楽コンクール〈指揮〉の第19回(2021年)開催概要が固まった。第4代審査委員長に就く尾高忠明(大阪フィルハーモニー交響楽団音楽監督・東京藝術大学名誉教授)は8月27日、東京・信濃町の民音文化センターでZOOMオンラインの記者会見に臨み「現時点の完成度より、これから大きく伸びそうな才能を発掘したい」などと、抱負を語った。審査員にはコンサートとオペラの両面に通じたオッコ・カム、準・メルクル、ダン・エッティンガーが初参加、翌年の披露演奏会を東京とブダペストで開き、東京公演をNHK交響楽団が初めて担当するなど、早くも「尾高カラー」を随所に打ち出している。

 1966年発足の民音コンクールにはかつて〈声楽〉〈室内楽〉部門もあったが、現在は1967年が第1回だった〈指揮〉のみ。3年に1度の開催を欠かさず、守り抜いてきた。第二次世界大戦後の日本の音楽教育に大きな足跡を残した齋藤秀雄の強い思い入れとともに始まり、齋藤自ら〈指揮〉の審査委員長を第3回まで務めた。第4〜10回は朝比奈隆、第11〜18回は外山雄三。尾高は「恩師の齋藤先生に始まり、錚々たる先輩の後を継ぐのは『まだ早い』と思いましたが、よくよく考えると就任時点の年齢は僕が一番上なので、お引き受けすることに・・・」と笑わせた。

 過去の入賞者は現在、日本内外のオーケストラに欠かせない指揮者となった。とりわけ第1位が小泉和裕、2位が尾高、入選が小林研一郎、井上道義の第2回、1位が十束尚宏、2位が大野和士、3位が小田野宏之、入選が山下一史、広上淳一の第6回、1位が下野竜也、2位が柳澤寿男の第12回、1位が初の女性となった沖澤のどか、2位が横山奏、3位が熊倉優の第18回の印象は強い。下野、沖澤は東京の翌年、フランスのブザンソン国際指揮者コンクールでも優勝している。

第18回の表彰式の模様。第1位は沖澤のどか
写真提供:民主音楽協会

 2019年末に起こった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大により、第18回ショパン国際コンクールをはじめとする多くの国際音楽コンクールの開催が21年以降に延期された。まだまだ先行きは不透明だが、21年はピアノだけでもショパン、エリーザベト、ヴァン・クライバーン、浜松など著名な国際コンクールのラッシュ状況も予想される。コロナ禍を通じて一段と加速したIT(情報工学)化により予選段階からの動画リアルタイム配信、客席とネット両方での「聴衆賞」投票などは、もはや当たり前。世界の音楽関係者、ファンが新しい才能の登場を同時体験する。

 指揮者がピアニスト、ヴァイオリニスト、歌手などと決定的に異なるのは「自分からは音を出さない唯一の音楽家」である点だ。私が新聞社の音楽担当記者&編集委員だった時期、指揮者コンクールに懐疑的だった最大の理由もそこにあった。「本選のために雇われたオーケストラと『一見さん』の若い指揮者が出くわすだけで、どれほどの音楽性を判定できるのか?」と。ところが前回、第18回の本選と記者会見、入賞デビューコンサートの長期取材をフリーになって最初の仕事として手がけ、先入観の誤りを思い知った。音楽センスや持ち味の違いが、はっきりと出る。

 尾高はデンマークのニコライ・マルコ国際指揮者コンクール審査員に招かれた際の経験を引き合いに出した。「マルコ自身が発展に大きく尽くしたデンマーク放送交響楽団にとって、コンクールは自分たちのオーケストラに来てほしい有能な若手を発掘する最大の機会。予選から本選まで本当に献身的に演奏して、審査に協力するのです」。日本でも緊急事態解除後の演奏会再開の過程で自国、とりわけ若手指揮者を起用せざるを得ない状況のなか「オーケストラにも音楽を懸命に奏で、若い才能の良さを引き出す姿勢が顕著です」(尾高)。次回本選は一段とホットな闘いにとどまらず、「『原石を見つけ、応援する』という元々の精神に立ち返る絶好の機会」(審査員の広上淳一=京都市交響楽団常任指揮者・東京音楽大学教授)ともなりそうだ。
取材・文:池田卓夫


【Information】
東京国際音楽コンクール〈指揮〉

審査員:尾高忠明、シャーン・エドワーズ、ダン・エッティンガー、広上淳一、井上道義、オッコ・カム、ライナー・キュッヒル、準・メルクル、高関健

第一次予選:2021.9/27(月)、9/28(火)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

第二次予選:2021.9/29(水)、9/30(木)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

本選:2021.10/3(日)
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

会場(全日程):東京オペラシティコンサートホール

東京国際音楽コンクール〈指揮〉オフィシャル・サイト
https://www.conductingtokyo.org