ミラノ・スカラ座 大聖堂から捧げるレクイエム

世界が注目する平和の祈りのコンサート
〜ヴェルディの鎮魂歌の精神性が比類なく掘り下げられるまたとない機会

 パンデミックが収まらず先が見通せないなか、ミラノ・スカラ座はひとまず秋のシーズンの開催を発表した。その皮切り、すなわちロックダウン解除後の初公演が、9月4日、ドゥオモ(大聖堂)で演奏されるヴェルディのレクイエムである。言うまでもなく、コロナ禍における犠牲者の魂に捧げられる。多くの死者が出た同じロンバルディア州のベルガモとブレーシャでも、その後演奏するという。

 敬愛する文豪マンゾーニの死に際してヴェルディが、死が不可避である人間の運命と真剣に向き合って作曲し、1874年5月、ミラノの教会(サン・マルコ教会)で初演された「レクイエム」。この鎮魂のためのミサ曲にとって、いま、ミラノの大聖堂で演奏されるほどふさわしい場面はないだろう。

ドゥオモ(大聖堂)

 この曲は時に、宗教曲にしてはオペラ的だと評される。事実、「怒りの日」の大太鼓の連打と力強い合唱も、「くすしきラッパの音」の四方から響くトランペットも、「人間が、審判者に答えるために」と決然と歌うバスの声も、それまでの教会音楽にくらべてドラマティックだ。
 それが聴き手には、精神の高揚を得られる魅力でもあるが、実は、ヴェルディ自身は「このミサ曲はオペラのように歌う必要はなく、劇場で美しく聴こえるような色彩には、私はまったく満足しません」と明記している。彼はこの曲を通して鎮魂のための普遍的な価値を創造したと自負していたから、劇場的な色彩が強調されるのを嫌ったのだ。

左より:リッカルド・シャイー、クラッシミラ・ストヤノヴァ、エリーナ・ガランチャ、フランチェスコ・メーリ、ルネ・パーペ

 そうした事情を一番理解しているのが、指揮をするスカラ座音楽監督、リッカルド・シャイーだろう。それは選ばれた歌手からも明らかだ。クラッシミラ・ストヤノヴァ(ソプラノ)、エリーナ・ガランチャ(メゾソプラノ)、フランチェスコ・メーリ(テノール)、ルネ・パーペ(バス)の4人に通じるのは、ドラマティックな声を持ちながらも、それを細部まで制御でき、端正で簡潔なフレージングを作り出せる点だ。

 「レクイエム」は、各所に指定された弱音から多彩な楽器群と合唱の爆発まで、精妙で骨太なディナーミクが求められる。だから、ともすれば劇場的な演奏になりがちだが、上記の歌手陣はオペラ的な情動を加えずに、ヴェルディならではの起伏に富んだ鎮魂の精神を適切に表せる。シャイーがまた、そうした機微を深く理解している。一流の演奏家たちが現に悲しみを募らせているいま、演奏に深い精神性が加わるであろうことも容易に想像がつく。

 そんな演奏が日本国内でも配信される。配信収益の一部と視聴者からの寄付をスカラ座へ届ける企画だという。
 歴史に残りうる演奏に聴き入りながら、犠牲者を悼み、コロナ禍が一刻も早く過ぎ去ってほしいことを祈る――。またとない機会を逃してはいけない。
文:香原斗志

リハーサルの模様


【Information】
ミラノ・スカラ座 大聖堂から捧げるレクイエム

演奏:リッカルド・シャイー(指揮)ミラノ・スカラ座管弦楽団
合唱:ミラノ・スカラ座合唱団 (合唱指揮:ブルーノ・カゾーニ)
独唱:クラッシミラ・ストヤノヴァ(ソプラノ)、エリーナ・ガランチャ(メゾソプラノ)、フランチェスコ・メーリ(テノール)、ルネ・パーペ(バス)
曲目:ヴェルディ「レクイエム」

配信日時:2020.9/12(土)20:00開始
視聴可能期間:2020.9/12(土)20:00〜9/20(日)23:59
購入可能期間:〜2020.9/19(土)23:59

チケット料金:3300円/4300円(+1000円寄付)/5300円(+2000円寄付)
視聴方法:入金確認後にメールで視聴URLをお知らせします。購入時のイープラスIDとパスワードでログインしてください。または、イープラス「申込状況照会」ページより、「QRチケット表示」からでもご視聴いただけます。

※募金付チケットは、記載額をミラノ・スカラ座へ寄付するチケットです。全券種とも同一の視聴内容です。
※別途、イープラス手数料220円をお支払いください。
※本配信に関するStreaming+ご利用ガイドは下記をご覧ください
https://eplus.jp/streamingplus-userguide/

ライブ・ビューイング・ジャパン
https://liveviewing.jp/contents/milanscala/