オーケストラの定期演奏会。4ヵ月前までは普通に聴いていた序曲→協奏曲→休憩→交響曲で構成された、オーケストラファンとしては嬉しい「定番セット」がついに戻ってきた。
この3月下旬以降、活動休止を経て無観客ライヴの動画配信を続けてきた東京交響楽団(東響)は6月26日、サントリーホールの第681回定期演奏会でフルサイズの定期再開へ、全国で最初に踏み切った。同夜、東京オペラシティ コンサートホールの東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団(指揮=藤岡幸夫)と、JMSアステールプラザ大ホールの広島交響楽団(指揮=下野竜也)は無観客のライヴ配信、大阪・フェスティバルホールの大阪フィルハーモニー交響楽団は曲目変更し、休憩なしの有観客定期公演(指揮=大植英次)を行った。日本のオーケストラが「with コロナ」状況下で、公演に一斉に動き出すなか東京都交響楽団(都響)、NHK交響楽団(N響)も活動再開を決めた。
26日に行われた東響の定期は、指揮がユベール・スダーンから飯守泰次郎、ピアノがイノン・バルナタンから田部京子に替わったが、曲目は当初発表のまま。前半がベートーヴェン生誕250年にちなんで「プロメテウスの創造物」序曲と「ピアノ協奏曲第3番」、後半がメンデルスゾーンの「交響曲第3番《スコットランド》」だった。ソリスト田部のアンコールもメンデルスゾーン「無言歌集」第2集から「ヴェネツィアの小舟」で全体の流れを踏まえていた。
赤坂アークヒルズのカラヤン広場からホールへ入場する時点から社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)を考慮した誘導がなされ、入口で入場券を見せたら手をアルコール消毒液で浄め(ドラムメーカーが開発したペダル式のサーバーを早くも導入)、検温サーモグラフィーを通過したらチケット半券を自分で切り、プログラムをピックアップする。入場者数は事前申込制で1,000人以下にコントロールされ、楽員も指揮者もマスクを着用したまま演奏に臨む。
BC(コロナ以前)と異なる景色はとりあえずここまで。コンサートマスターの水谷晃が現れ、チューニングを始めようとしても拍手が鳴り止まず、とっさの判断で全楽員が起立、客席に一礼すると拍手の音量がさらに上がった。飯守は、最初は慎重な棒さばきだったが徐々に熱を帯びる。内面世界にひたすら沈潜、楽曲にすべてを語らせる姿勢の田部との息もぴったりで、ベートーヴェンを味わい尽くした。メンデルスゾーンも充実した演奏。終わった瞬間の拍手は満席(2倍)の音量に達していた。20分間の休憩をはさみ、終演は21時10分。良い意味で正当的なプログラムの美味しさを久しぶりに思い出し、全員が感無量だった。
都響とN響の再開(詳しくは下記参照)が、ともにベートーヴェンの「交響曲第1番」というのにも、単なる偶然以上の意味合いがある。今は亡き名ヴァイオリ二ストで指揮者、ゲルハルト・ボッセは「J.S.バッハの死後たった50年でこの曲が誕生したこと自体が革命的だ」と語っていた。
文:池田卓夫
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〜動き出す日本のオーケストラたち(1)
*下記以外のオーケストラ情報は、関連記事「動き出す日本のオーケストラたち(1)」をご覧ください。
*この情報は2020年6月28日現在のものです。
変更の可能性もありますので、詳細は各オーケストラのウェブサイトでご確認ください。
東京都交響楽団
都響スペシャル2020
7月12日(日) サントリーホール
7月19日(日) 東京文化会館
6月11日、12日に東京文化会館で行った、「COVID-19(新型コロナウイルス)影響下における演奏会再開に備えた試演」の検証結果と専門家からの助言を受け、「演奏会再開への行程表と指針」を策定(6月25日発表)。7月の定期演奏会を中止する代わりに音楽監督の大野和士が休憩なし約1時間の「都響スペシャル2020」を指揮、有観客公演(都響会員・サポーター限定)を再開する。ともにベートーヴェンの交響曲がメインで、19日は藤倉大の近作「三味線協奏曲」管弦楽版の日本初演(独奏=本條秀慈郎)も話題だ。
https://www.tmso.or.jp
NHK交響楽団
7月17日(金)19時30分からNHKホールで行う無観客演奏により、演奏活動を4ヵ月ぶりに再開。 NHK-FM「ベストオブクラシック」で生放送され、テレビ収録も行う。指揮は首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィの下でN響アシスタントを務めた若手の熊倉優。有観客での正式な定期再開の日程は、7月に長野県茅野市で医学、科学の専門家とともに行う科学的検証実験の結果を受けて決める(7月25日には広上淳一の指揮で「フェスタサマーミューザKAWASAKI2020」で演奏を行う)。
https://www.nhkso.or.jp