アーティストメッセージ(65)〜黒田 博(バリトン)

 COVID-19の影響で断絶していた状況から、人々の行き交いが少しずつ始まりました。

 「コロナ」とは、イタリア語で「王冠」という意味がありますが、その昔イタリアに留学していた時、「フェルマータ」のことを、「コローナ」と呼ぶと教わりました。音符や休符の上に半円を被せる形から「王冠」をイメージしているのでしょう。「フェルマータ」は「停止」とかバスの「停留所」という意味で、わりと生活にありふれた言葉なんですね。“音楽は、終止線が引かれたところまで止まらずに続いていくんだ。だから「フェルマータ」とは言わないんだ”と。

 人生を楽譜にたとえると、私たち音楽家のパートには、今、あのとき教わった「コローナ」が上にあるのだと思います。決して停止はしていません。音楽をするのだという気持ちを絶えず動かし、エネルギーを貯めて、この後に続く時代の音符を、躍動感をもって奏でようとしています。

 先日、「命から一番遠いところにあって、心に一番近いところにあるのが音楽であり、芸術である」という言葉を耳にしました。人類という生命体は音楽がなくても生きてはいけますが、心の友として人に寄り添い、勇気づけることが出来る物が芸術であり、そして音楽であると、あらためて確信しました。

 いっぽうで、医療従事の方など、命に一番近いところで闘われている方がいます。一日でも早く、そうした方々に音楽を携えて駆け付けたい。

 音楽活動も動き始めていますが、「歌」はその中でも一番後になるものと覚悟していました。今、ようやく歌声を届けられる日が近づきつつあります。「コローナ」明けのコンサート、オペラ公演を、どうぞ楽しみにしていてください。


【出演情報】
東京二期会スペシャル・オペラ・ガラ・コンサート「希望よ、来たれ!」
2020.7/11(土)15:00 東京文化会館

東京二期会オペラ劇場《フィデリオ》
2020.9/3(木)18:30、9/4(金)14:00、9/5(土)14:00、9/6(日)14:00
新国立劇場オペラパレス

*公演情報の詳細は、下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.nikikai.net