高崎芸術劇場 音楽ホール 2020年度後期ラインナップ

豊かな残響を誇る贅沢な空間で愉しむ多彩なプログラム


昨年9月にオープンした高崎芸術劇場は群馬の中核的文化施設。400席ほどの音楽ホールは、舞台の熱気を肌で感じられる贅沢な空間だ。本年度後期も個性豊かな6つの公演がラインナップされている。

4人のコントラバス奏者からなるザ・ベースギャングは中でもユニークだ(10/17)。普段は縁の下の力持ちとして光の当たる機会の少ない楽器だが、大きな図体とは裏腹に豊かな表現力を持っている。視覚的ギャップまで活用してエンターテインメント性の高いステージを作り、ベースの魅力をアピールしてきた彼らは、イタリア名門オケに所属する実力派。今回の来日でも、クラシックにとどまらずジャズやロック、さらにはJ-POPまで幅広い曲目を披露してくれる。

ヴァイオリンのネマニャ・ラドゥロヴィチは、ふわっと膨らんだ独特のヘアスタイル、そこから浮かび上がる柔らかな微笑み、フランクな立ち居振る舞いや憑依型の演奏まで、エキゾティックでワイルドな魅力を発散し、日本にも多くのファンを持つ。「悪魔のトリル」は気の合った音楽仲間と結成した弦楽アンサンブルで、チャイコフスキー、ブラームス、バッハといった本流を押さえつつ、バラエティ豊かな曲目を披露してくれる(11/7)。

12月にはウィーン・フィル、ベルリン・フィルという世界の頂点に君臨する二大オーケストラの個性派メンバーたちが結成したフィルハーモニクス ウィーン=ベルリンが登場(12/16)。ピアノと弦楽アンサンブルにクラリネット界のサラブレット、ダニエル・オッテンザマーがアクセントを加える。クイーンの名曲からスウィング風ベートーヴェンまでライト路線で、クリスマス前のひとときを鮮やかに彩る。お互いを熟知したメンバーの編曲が、それぞれの奏者の長所をどう引き出すかにも注目だ。

2月には古楽の本場、オランダの誇る巨匠トン・コープマンがチェンバロ演奏で登場する(21.2/14)。古楽復興運動は1970年代以降大きく進化したジャンルでスタイルも多様化したが、コープマンこそ、その保守本流、正統的継承者と言ってもよいだろう。今回はバッハの平均律第2巻に、モーツァルトがフーガのエッセンスを修得するために、バッハの作品に倣って作った「5つのフーガ K.405」を挟み込み、ひねりを加えた。国内演奏家もアンサンブルで加わる豪華版。

ミラノの大聖堂(ドゥオーモ)はイタリアの観光スポットとしても有名だが、3月には1000年の歴史を誇る同大聖堂聖歌隊の妙なる歌声がやってくる(21.3/7)。毎日曜日に行われるミサを活動の基軸にしつつも、そのハーモニーは世界各地で高い評価を受けており、来日も3回目。20年以上にわたり同団を率いるクラウディオ・リヴァの下で、実際のミサで歌われる音楽からクラシックの名旋律までをプログラミングしている。西洋音楽の母体ともいうべきいにしえの祈りに耳を傾けよう。

シリーズを締めくくるのは人気バンドネオン奏者の三浦一馬(21.3/10)。アルゼンチンで真髄を会得した三浦は、同じくピアソラを得意とするヴァイオリンの石田泰尚らと、ピアソラが率いたのと同じ編成のアンサンブルを結成、旋風を巻き起こしている。危険な香りの漂う硬派な男たちが散らす火花に、南米のエロスが激しく燃焼する。オール・ピアソラ・プロで、2021年に生誕100年を迎えるこの作曲家を寿ぐ。

トップランクのアーティストを揃えコアなファンにもアピールしつつ、編成やプログラミングには枠にとらわれない柔軟さがあり、幅広い層に訴求するラインナップだ。会場の規模や出演者の数に比してチケット代もリーズナブルだが、6公演セット券を買うとさらにお得。近隣県から遠征しても十分元が取れるだろう。購入はお早めに。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2020年7月号より)

*新型コロナウィルス感染症の感染拡大を考慮し、一部公演に開催の中止が発表されております。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

問:高崎芸術劇場チケットセンター027-321-3900
http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/
※各公演、発売日の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。