2つの“ハ長調”が示唆する豊穣な世界
新日本フィル音楽監督・上岡敏之の4シーズン目最後の定期演奏会は、“ウィーンのハ長調”プログラム。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番とシューベルトの交響曲第8番「グレイト」が披露される。両曲は共に作曲者20代後半の所産。同年代時の2人が、開放的でピュアな響きをもつハ長調でいかなる個性を発揮したか?という点がまず焦点となる。また前者は大巨匠への第一歩、後者は(結果的に)集大成となった作品だ。その在り方の違いと同時に、シューベルトの凄さも再認識させられるであろう。さらにベートーヴェンは同協奏曲でモーツァルトの流儀を受け継ぎながら自己を打ち出し、シューベルトはベートーヴェンへの憧れの中で別種の交響曲を生み出してブルックナーへの道筋を示した。ここではこうした連鎖も示唆されている。一見穏健なこの名曲プロ、実は様々な見地で意味深い内容なのだ。
ピアノ独奏はフランスのベテラン名手アンヌ・ケフェレック。2016年と18年に当コンビと共演し、優美で奥深いモーツァルトを聴かせた彼女は、今回も、清冽、繊細かつ味わい深い演奏で、曲のイメージを刷新してくれるに違いない。そしてシューベルトの交響曲は、今シーズンの新日本フィルの柱。上岡自身も5曲を指揮し、無用な力の抜けたしなやかでなめらかな音楽を奏でてきた。シーズン前にシューベルトの“歌心”を強調していた上岡が、その極め付けである「グレイト」をいかに表現するのか? 既成概念に囚われない彼がまた新たな作品像を提示するのか? 演奏面でも注目度満点のシーズン締めくくりとなる。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2020年5月号より)
*新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、本公演は出演者が変更となりました(6/23主催者発表)。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
定期演奏会 ルビー〈アフタヌーン コンサート・シリーズ〉第32回
2020.7/17(金)、7/18(土)各日14:00 すみだトリフォニーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815
https://www.njp.or.jp