シューベルトの個人的な“音楽語法”に近づく
ドイツの伝統を継承する巨匠、ゲルハルト・オピッツが2010年から東京で続けてきた、シューベルトの連続演奏会(全8回)。この好企画が、いよいよ12月に完結の時を迎える。作曲家の晩年に焦点を当てた第7回(3つのピアノ曲D946、ソナタ第17番 他)と、キャリアの最初と最後に視点を置いた第8回(ソナタ第6番・第21番 他)、シューベルトの人生を集約したような2つの最終ステージ。これを前に、オピッツは「シリーズを通じ、シューベルトの想像力に対する私の敬服の念は、以前よりさらに大きくなった」と振り返る。
「シューベルトは、ほとんど旅行経験がなく、アルプスを越えることも地中海の生活習慣に触れることもせずに、ほぼウィーンとその周辺で暮らしました。しかし、その想像力はあらゆる地理的境界を、はるかに凌駕していた。私は以前にも増して、シューベルトの偉業に敬服すると共に、彼の音楽と親密な関係を築き、想像力を得られて、とても感謝しています」
シューベルト作品を演奏する際、常に「彼の個人的な“音楽語法”に近づこうとする」と説明する。
「この語法とは、彼の故郷で話されるウィーンの方言と共通する部分もある。彼の歌曲の素晴らしさに浸りつつ、彼が選んだテキストを読む作業は、その内面世界に近づく鍵です。シューベルトは基本的に孤独でしたが、多くの感受性豊かな人々の心を揺さぶる魔法のような才能を持っていた。彼の作品を演奏する時はいつも、彼が私に伝えてくるメッセージが意味するものを表現しようと心がけています」
一方で、日本では一部の有名作品を除き、彼のピアノ作品を取り上げる機会は未だ少ない。「知られていない曲を紹介するのは、とても楽しい経験だった。過去6回の公演で、聴衆は興味と集中力をもって、聴いて下さっていました」とオピッツは語る。さらに、「私は数多くのステージや録音の経験から、シューベルトとその作品に対する理解を深め、彼が尊敬した先駆者ベートーヴェンや、シューベルトを信奉していたブラームスの作品へも同時に触れました。そして、シューベルトこそが、ウィーンの古典派からロマン派時代への発展における、キーパーソンだと確信できたのです」と付け加えた。
「日本での大きなプロジェクトは今後も継続したい。ブラームスやシューマンなど、取り上げたい作曲家は何人もいる」と今後を語るオピッツ。一方で「とても複雑な作品を何度も演奏してきた私ですが、バッハの『ゴルトベルク変奏曲』をステージで演奏する勇気が、未だにありません。今日まで、その偉大な金字塔を大いに尊敬するが余り、この作品へ近づくことができないままでいます。いつか、それを私のレパートリーに入れる日が来るかもれません。それは私にとって、きっと重大なステップになるでしょうね」と謙虚に締め括った。
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2013年11月号から)
シューベルト連続演奏会
第7回:12月5日(木) Lコード 39286
第8回:12月20日(金) Lコード 39287
会場:東京オペラシティコンサートホール
問 パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
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