イーヴォ・ポゴレリッチ ピアノ・リサイタル

沈黙の時期を経て、着々と歩を進める鬼才の“今”を聴く

Photo:Bernard Martinez
C)Sony Music Entertainment

 ここ10年の間、イーヴォ・ポゴレリッチは2年と間を置かずに来日リサイタルを行ってきたが、昨年21年ぶりにアルバムを発表し、音楽界で注目を集めたことは記憶に新しい。ポゴレリッチは、22歳で受けたショパン国際ピアノコンクールで予選落ちし、審査員の一人であったアルゲリッチがその結果に激怒したという有名なエピソードをはじめとし、療養のために長らく沈黙を守るなど、その活動についてはセンセーショナルに語られることが多かったが、彼自身は極めて内省的に音楽芸術と向き合い、ひたむきに作曲家たちの所産と対峙してきた。そのアウトプットとなるポゴレリッチの演奏は、ときに「個性的」という言葉で受け止められるも、単なる「自我の強さ」とは程遠い意味での「個性」であることは、献身的なまでに作品世界に没頭する彼の、研ぎ澄まされた実演に接すれば、存分に感じられるはずだ。

 今回のリサイタルはJ.S.バッハで幕を開ける。ト短調の響きが切実さとともに華やかさも持つイギリス組曲第3番だ。続くベートーヴェンのソナタは第11番。古典的な書法ながらみずみずしさに溢れたこの作品を、ポゴレリッチはどのように響かせてくれるだろうか。ショパンは2作品。名曲「舟歌」に続いては、ショパン自身が転調の妙に自信を示した前奏曲 op.45を取り上げる。締めくくりは、怪しい煌めきを放つラヴェルの「夜のガスパール」。ポゴレリッチのアプローチが気になって仕方がない作品ばかりのプログラムだ。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2020年2月号より)

2020.2/16(日)19:00 サントリーホール
問:カジモト・イープラス0570-06-9960 
http://www.kajimotomusic.com
※全国公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。