リゴレットの感情の起伏とカンタービレをダイレクトに伝えたい
「予想もしていなかった役が、突然来てしまいました!」と、与那城敬はにこやかに語る。ドン・ジョヴァンニやエスカミーリョのような色男役が続く名バリトンだけに、毒を吐いて呪われる宮廷道化師リゴレットの人物像を、いまどのように捉えるのか?
「新国立劇場の研修所時代から、レパートリー選びは慎重にと考えてきましたので、ヴェルディのドラマティックなオペラに関しては、基本的に避けていたんです。《リゴレット》もアリアすら歌ったことが無く、試演会の助演者として、二重唱を一度やったぐらいですかね…だから、今回は本当に予想外のお話でした。演出の彌勒忠史さんにも『なんで僕ですかね?』とそのまま聞き返したぐらいでした(笑)」
なるほど。しかし、声も人間も成熟すれば変わる。好青年の役のイメージが強かった与那城にしても、数年前のドン・ジョヴァンニでは、一瞬のサディスティックな声音で客席を掴んでいた。
「ありがとうございます。本当に声は変わりますね…。思えば、20代の頃は高音域が苦手でよくひっくり返っていたけれど(笑)、確かに今の方が安定して出せるんですよ。ところで、高音といえばリゴレットも高いAs(変イ音)を出すケースが多いですが、でも、それをマーラーみたいに綺麗に上げてゆくわけではなく、怒りや苦しみがこもった激情の一声として放つわけですね…。ただ、その一方で、《リゴレット》の楽譜をよく読んでみると、想像以上にカンタービレ(美しく朗々と歌えるような)の曲調が多いんです。娘ジルダへの愛が溢れるメロディアスな部分など、自分の持ち声でたっぷり表現してみたいです。また、アリア〈悪魔め鬼め〉も、人間の怒りや懇願など生の感情が詰め込まれた名曲として、皆様に聴いていただきたいと思います」
ちなみに、今回の《リゴレット》は、ヨコスカ・ベイサイド・ポケットが誇る超人気シリーズ「オペラ宅配便」でのハイライト上演である。
「長年出演させていただいていますが、アリーナ形式の上演で四方からお客様に囲まれるスタイルなので、皆様の反応がダイレクトに伝わってくるんですよ。清水のりこさんのエレクトーンの多彩な音色と共演者の方たちの歌声にも助けられながら、不実なマントヴァ公爵ではなく、愛娘のジルダの方を死なせてしまうというリゴレットの悲運と、彼が抱える烈しい感情の起伏を、マイクを通さない生の声でどこまで伝えられるか。まずは全力投球で臨みます。ご来場お待ちしています!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2020年2月号より)
オペラ宅配便シリーズ18 ぎゅぎゅっとオペラ DIGITALYRICA
ヴェルディ《リゴレット》(ハイライト版/原語(イタリア語)上演・字幕付)
2020.2/16(日)15:00 ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
https://www.yokosuka-arts.or.jp