サー・アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタル

ブラームス、そしてドイツ音楽の至高を聴く

C)Nadia F Romanini

 2019年11月にアンドラーシュ・シフが弾き振りしたベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏を聴いて、彼のリサイタルへの渇望感を覚えた。協奏曲が物足りないのではなく、むしろ逆。各曲の性格に即して吟味された多様な音色と、無用な力の抜けた、それでいて実のある力感と瑞々しさを湛えた名演を耳にして、シフの音楽への感興を改めて刺激されたのだ。彼が現代最高の奏者の一人であるのは周知の事実。古楽奏法を含めた探求を極めつくして音楽の真実のみを語る表現は至高の域に達している。しかしながら、協奏曲でみせた“さりげなくも限りない深みと味わい”は、次のリサイタルへの期待を著しく増幅させた。

 半年も経たない3月にそれが実現する。しかも“さりげなくも限りない深みと味わい”の特質にこの上なく相応しいブラームス最晩年の小品集が主軸。これは実にタイムリーだ。今回は2つのプログラムを通じて、ブラームスのop.116、117、118、119およびop.76の前後にバッハ、ベートーヴェン等の名作が置かれ、冒頭をメンデルスゾーンとシューマンの若干レアな作品が飾るドイツ音楽集が用意されている。“ブラームスと彼が影響を受けた作曲家”による示唆に富んだプログラムは、いかにもシフらしいし、ベートーヴェン作品が、有名曲にやや隠れた中期後半の第24番「テレーゼ」と第26番「告別」である点も興味をそそられる。それに何より、ブラームスが晩年の諦観や燻る情熱を綴った珠玉の4作の全てを、シフの演奏で味わえるのはまさに僥倖。両プログラムともに体験したい、言うまでもなく必聴の公演だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2020年2月号より)

2020.3/12(木)、3/19(木)各日19:00 東京オペラシティ コンサートホール
3/17(火)19:00 大阪/いずみホール
問:カジモト・イープラス0570-06-9960 
http://www.kajimotomusic.com

他公演
2020.3/14(土) 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール(0570-064-939)
3/15(日) 札幌コンサートホール Kitara(011-520-1234)
※全国ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。