アンリ・バルダ ピアノ・リサイタル

円熟の巨匠が満を持して取り組むオール・ショパン・プロ

©エー・アイ 撮影:檜山貴司
 ピアノという楽器を使って、ここまで深い情感を描き出せるピアニストは他にいるのだろうか? 以前、アンリ・バルダの実演を聴いた時にそんなことを思った。どの作曲家のどの作品でも、そこにあるべき音楽が浮かび上がってくる。恣意的ではなく、あくまでも自然な姿で語りかけてくる音楽。テクニックを見せびらかすことなど微塵もないが、しかし、すべてが的確に表現されるピアニズム。それは現代において稀有なものだ。そのアンリ・バルダが2017年以来、再び日本のステージに戻ってくる。

 エジプトのカイロ生まれ。ホロヴィッツが最も恐れたライバルであったポーランドのイグナス・ティエガーマンに特別な指導を受けた。16歳でパリへ渡り、その後ジュリアード音楽院でも学んだ。パリ国立高等音楽院を経て、現在はエコール=ノルマル音楽院で教える。あまり公の場で演奏をしないことから、幻のピアニストと呼ばれていたこともあるが、日本では数度その演奏を披露してきた。特に08年、10年の紀尾井ホールでの演奏は多くの聴衆に感動を与えた。

 今回の来日公演では得意とするショパンだけのプログラムを組んだ。4つの「即興曲」「バラード第1番」「ソナタ第2番」「ソナタ第3番」などが並ぶ。ピアニストにとっては「オール・ショパン」のプログラムこそチャレンジングなものだと思うが、あえて今、それを東京文化会館大ホールで披露する。ショパンの魂と触れ合う、そんな貴重な時間の流れるコンサートとなるだろう。
文:片桐卓也
(ぶらあぼ2019年11月号より)

2019.12/3(火)19:00 東京文化会館
問:コンサートイマジン03-3235-3777 
http://www.concert.co.jp/