藤沢市民オペラ 2018-2020シーズン 《湖上の美人》(演奏会形式)

ベルカントの饗宴! ロッシーニの傑作を日本初演

上段左より:園田隆一郎 ©Fabio Parenzan/森谷真理 ©武藤 章/中島郁子
下段左より:山本康寛/小堀勇介/妻屋秀和

 角笛を模すホルンの音と、仕事に向かう羊飼いたちの声が響きあう夜明け。やがて、霧の中、小舟で湖を渡る美女のしっとりした歌声が聴こえてくると、北の山国の爽やかな涼気がステージをさらっと吹き抜けるよう。まさしく「空気を音で描写する」大作曲家ならではの雄弁な音運びだろう。

 ロッシーニの《湖上の美人》は、1819年にナポリで初演された2幕立てのオペラ。原作は文豪スコットの有名な叙情詩であり、スコットランド国王と高地人の対立を背景に、国王と民衆の首領ロドリーゴの二人から愛される娘エレナが、真に愛する若き武人マルコムと無事結ばれるまでを、国王の寛大な赦しを交えて描いている。エレナはまさしくソプラノのプリマドンナのための役だが、国王と首領はどちらも主役級のテノールが演じ、マルコムはコロラトゥーラに秀でたメゾソプラノが男装して担当。まさしく、「贅沢なキャスティングでこそ成功する」難曲なのである。

 来る12月、演奏会形式でこの名作を日本初演するのが、市民参加型公演の雄たる藤沢市民オペラ。指揮は「我が国のロッシーニの第一人者」と称される園田隆一郎である。老匠ゼッダの愛弟子として、声の技を知り尽くす若きマエストロが、森谷真理(エレナ)、山本康寛(国王ウベルト)、小堀勇介(ロドリーゴ)といった新世代の名手たちが超高音を競い合う第2幕の三重唱をどこまでスリリングに聴かせてくれるか、今から本番が楽しみでしょうがない。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2019年11月号より)

2019.12/1(日)14:00 藤沢市民会館
問:藤沢市みらい創造財団 芸術文化事業課0466-28-1135 
https://f-mirai.jp/arts/