藤岡幸夫(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

会心のコンビが放つ、冴えた好プログラム


 今春から東京シティ・フィルの首席客演指揮者に就任した藤岡幸夫が、早くも得意のプログラムで熱演を繰り広げてくれそうだ。

 まずはヴォーン=ウィリアムズの「『富める人とラザロ』の5つのヴァリアント」。長く歌い継がれるイギリス民謡の異稿を集め、一種の変奏形式にまとめたもの。朗々と、そして時に厚く歌う弦楽合奏に、ハープのつま弾きが音の葉を散らす。イギリスで研鑽を積んだ藤岡が、本場の隠れた名品をまた一つ、開陳する。

 続いてロシアの名門グネーシン音楽学校、そしてモスクワ音楽院を首席で卒業した若き才能・松田華音を迎え、プロコフィエフ「ピアノ協奏曲第3番」。松田は近作アルバムでもロシアものを披露しており、シャープな端正さとしなやかな優雅さのバランスが印象的。藤岡の情熱的なタクトは、しかし時としてソリストから思わぬ一面を引き出すから、彼女のスタイルも意外な方向に引っ張られていくかもしれない。

 後半は伊福部昭の舞踊曲「サロメ」。1948年にバレエ版が作曲され、当時大変な人気を博したという。長らく行方不明になっていたスコアが再発見されたのを機に、作曲家自身が編みなおし、87年に発表したのが本作。こってりとした東洋趣味はもちろんのこと、執拗に繰り返される伊福部節が、狂乱したサロメの壮絶な最後を描き出す。

 伊福部作品の演奏のキモは、粗削りのリズムと節回しに没入し、会場全体を神輿に群がる群衆のようなトランス状態にまで持っていけるか、にかかっている。この点において藤岡以上の指揮者はいないのではないだろうか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年10月号より)

第329回 定期演奏会
2019.11/9(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 
http://www.cityphil.jp/