【会見レポート】東京バレエ団が勅使川原三郎の新作『雲のなごり』(音楽:武満徹)を世界初演

 創立55周年を迎えた東京バレエ団が10月26日、27日、勅使川原三郎振付の新作『雲のなごり』(音楽:武満徹)を世界初演し、併せてジョージ・バランシン振付『セレナーデ』(音楽:ピョートル・チャイコフスキー)、モーリス・ベジャール振付『春の祭典』(音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー)を上演する。これに先立ち10月11日、勅使川原と佐東利穂子(KARAS)、斎藤友佳理芸術監督、沖香菜子、柄本弾、秋元康臣による記者会見が催された。
(2019.10/11 東京バレエ団 取材・文:高橋森彦 Photo:J.Otsuka/Tokyo MDE)

左より:秋元康臣、佐東利穂子、勅使川原三郎、斎藤友佳理芸術監督、柄本 弾、沖 香菜子

 東京バレエ団はベジャールやジョン・ノイマイヤー、イリ・キリアンといった巨匠の名作をレパートリーにしているが、創立55周年記念作品を委嘱したのは日本人振付家の勅使川原だ。勅使川原はダンスカンパニー「KARAS(カラス)」を主宰し、パリ・オペラ座バレエ団に3度新作を提供するなど、世界的に評価が高い。勅使川原のダンスは何よりも呼吸を大切にし、音楽や空間に対して有機的に溶け込んで無二の踊りをつむぎ出す。また自ら照明・美術を手がけ、その研ぎ澄まされた感性と卓越した構成力によって息をのむような美的世界を生む。新作では武満徹の「地平線のドーリア」「ノスタルジア —アンドレイ・タルコフスキーの追憶に—」を用い、同時上演作品も含めベンジャミン・ポープ指揮、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の生演奏により上演する。

斎藤友佳理芸術監督

 会見の冒頭、斎藤芸術監督が3月から始まった創立55周年記念シリーズと6〜7月に欧州3ヵ国5都市で行った〈第34次海外公演〉を振り返った。そして2015年の監督就任後「年に1回、新しい今までになかったレパートリーを加えることを意識している」という方針を説明し、勅使川原が演出、振り付けした「あいちトリエンナーレ2016」プロデュースオペラ《魔笛》でのコラボレーションを経て新作を委嘱するに至る経緯を語った。

 勅使川原は依頼を受けて若い日から聴いていた「武満さんの音楽でいきたい」とすぐに思ったと明かし、初期に書かれた「地平線のドーリア」(1966年)については、「独特の直截的な、直感的なものを感じます。痛みというか人間のイメージを超えた感覚、身体的な感じを受けました」と話す。そして作品の後半には、「地平線のドーリア」を“緩めるもの”として「ノスタルジア」(1987年)を選んだ。

勅使川原三郎

 テーマは「ないものとは何か」。時間をはじめとする「観念から解放された何かという問い」を提示するという。作品名の『雲のなごり』とは藤原定家の歌の一節からとられた。「自然との一体感の中で感じる推移するものを表した詩がありました」と話しつつ、「なんとなしの雰囲気の作品や印象記にはしたくない」と語る。

 勅使川原作品の“申し子”で、このところ振付家としても海外から招聘されるなど活躍の場を広げる佐東は、演出助手を務め出演も果たす。勅使川原のメソッドに通じていても出演者や音楽が違えば新たな創作環境になるという旨を話し「あらゆる要素に対して今の自分の体で捉え直して向き合いたい」と意欲を示した。

 東京バレエ団からは沖、三雲友里加、柄本、秋元、池本祥真が出演。沖は「まだこの先どういう作品になっていくのかが分からずにいますが」と新しい体験の感想を口にしつつ、他作品にも出演することを踏まえて「観に来てくださった方に、『沖さんがまた出ているね』と同じダンサーに思われないようにしないといけない新しい挑戦。すべての作品に全力を注ぎたい」と熱意を見せる。

リハーサル風景より 左から:秋元康臣、柄本 弾、佐東利穂子、三雲友里加
Photo: Arnold Groeschel

沖 香菜子

 勅使川原作品に初めて関わる柄本は「自分がやったことのないダンスの分野なので大変なことも多いのですが、作品が新しくできる場にいるというのはダンサーにとって良い経験。ダンサー一人ひとりがコール・ド・バレエ(群舞)ではなくソリストとしてひとつの作品を創り上げられるように頑張っています」と語った。

柄本 弾

 
 秋元は「葛藤もあります。別の作品にも出演する予定ですし、そういうことをちょっとでも考えてしまうと、どこか自分にブレーキをかけてしまったりする部分もありますが、勅使川原さんの言葉だけを素直に受け取りたい」と自分に言い聞かせるように話した。

左より:秋元康臣、佐東利穂子、勅使川原三郎

 
 それを受けて勅使川原は「皆から何かを引き出せるかどうかが第一の目的」と述べ、「作品を創る時には新しい言葉が必要なので、持っている味が違う人を選ばせてもらった」と出演者選択の理由を明かした。そして東京バレエ団のダンサーに接し「レベルの高いカンパニー」と高く評価した上で、「学ぶ喜びをもっともっと感じるとダンスの風景が変わってくると思う。もっと独自のものができる」と日本からの新たな創造への期待を寄せる。

左より:勅使川原三郎、斎藤友佳理芸術監督

勅使川原三郎

 公演に向けて勅使川原は「普段はこういうことを言わないのですが・・・」と前置きしながら、「上手くいくと思っています。最終的な絵柄ができるために、このように向かっていけば間違いないという方向性が確立されています。一人ひとりに献身性を感じるので、これから急激に良くなっていくでしょう。あとは構成と場面設定を間違いないようにしていく」と自信をのぞかせた。東京バレエ団と勅使川原三郎が放つ挑戦的新作の初日が楽しみだ。


東京バレエ団×勅使川原三郎 新作『雲のなごり』世界初演
ジョージ・バランシン『セレナーデ』
モーリス・ベジャール『春の祭典』
2019.10/26(土)、10/27(日)各日14:00 東京文化会館
https://www.nbs.or.jp/stages/2019/teshigawara/