【会見レポート】英国ロイヤル・オペラ日本公演まもなく開幕!

9月12日の開幕を控え、英国ロイヤル・オペラ2019日本公演の記者会見が開催された。アントニオ・パッパーノ音楽監督をはじめ《ファウスト》と《オテロ》の主役たちが顔を揃えた。
(2019.9/6 東京都内 取材・文:吉羽尋子 Photo:J.Otsuka/Tokyo MDE)

左より:イルデブランド・ダルカンジェロ、ヴィットリオ・グリゴーロ、アントニオ・パッパーノ、フラチュヒ・バセンツ、グレゴリー・クンデ、ジェラルド・フィンリー
アントニオ・パッパーノ

 「日本に来るたびに大きな喜びを感じています。日本公演は、ロイヤル・オペラ唯一の海外公演であり、全員がロンドンを離れて公演するという特別な機会なのです」とパッパーノ。そして、今回上演する《ファウスト》と《オテロ》については、「マーベラス(信じられないほど素晴らしい)な2本を紹介できるのはとても素晴らしいこと!」と述べ、演目への想いを一気に語った。

「《ファウスト》は音楽に大変力があり、いろいろな要素が詰まっています。登場人物のすべてが特別な個性を持っているので、キャストの充実が不可欠ですが、今回はこの上ない“悪魔”と“プロフェッサー”が揃いました(笑)。もう1本の《オテロ》は、ヴェルディの集大成というべき作品。シェイクスピアのメッセージをストレートに、そしてダイレクトに伝えます。オテロとヤーゴは最も難しい役ですが、こちらもまたクンデとフィンリーという素晴らしい歌手が揃いました。汚れのない純粋さが必要なデズデモナ役のバセンツも、申し分ありません。2つの異なるスタイルの作品の両方を日本で指揮することを、とても嬉しく思っています」

ヴィットリオ・グリゴーロ

 ファウスト役のヴィットリオ・グリゴーロは、これまでにも来日したとはいえ、本格的なオペラの舞台に登場するのは今回が初めて。「最高の指揮者であるパッパーノのもとで歌えるのは最高! 友であり、すべてを信頼して任せられる彼がマジックを起こす場に居あわせることができて嬉しい」とパッパーノとの共演に自身の期待を膨らませているよう。

 メフィストフェレス役のイルデブランド・ダルカンジェロは、前回のロイヤルとの来日がドン・ジョヴァンニ役だったことを振り返り、「ドン・ジョヴァンニも悪いヤツだったけど、今度は遂に悪魔です」と、会場の笑いを誘った。

イルデブランド・ダルカンジェロ
グレゴリー・クンデ

 数多いテノール歌手の中でも、ロッシーニとヴェルディ両方のオテロを歌う歌手はほとんどいない。その希少な一人がグレゴリー・クンデだ。二つの作品の違いは? という質問には、「作品のもつスタイルという点では、ベルカントのロッシーニ、ヴェリズモ的なヴェルディ、といえるとは思うけれど、歌うことについての取り組み方で私自身が大きな違いを感じることはありません」と答えた。そして「ヴェルディのオテロは、テノールが目指す頂点の役」であるとも言う。

 出席者のなかの紅一点、デズデモナ役のフラチュヒ・バセンツは、一見プリマドンナとしての艶やかなオーラを放っているのだが、「英語は得意ではないので間違えたらごめんなさい」と謙虚さが愛らしい。「単なる指揮者ではなく、音楽家というのでもない…その指示はまるで素晴らしい絵を描いていく画家のようだと思っています。そして、私たちを護ってくれる守護神のよう」と、パッパーノへの全幅の信頼を寄せている。

フラチュヒ・バセンツ
ジェラルド・フィンリー

 ヤーゴ役を歌わせたら世界のトップ、といわれるジェラルド・フィンリー。さすがに役については深く語る。
「ヤーゴ役は歌手としてだけでなく、役者としてもやり甲斐を感じる役です。シェイクスピアはヤーゴに、人間のいろいろな側面をもたせました。あるときにはジョーカーのように、あるときには物陰に隠れて囁いたり、笑わせたかと思えば怒らせたりと、このドラマチックな物語のなかで人々の感情を操るのです。そして最終的には一人のリーダーを破滅させる。この大きなテーマは、シェイクスピアの人間観察の賜物というより、ヴェルディとボーイトが音楽によって描き出したものです。ヤーゴには、大きな声で歌え、というところがありません。常にオテロの耳元で囁いているのです。pp(ピアニッシモ)の表記が7回もあるんです。でも、その囁く声は、オーケストラの音とともに聴衆の皆さんには聴こえなくてはなりません。私はマエストロに、『こんなに小さい声で大丈夫?』と何度も確認したほどです。《オテロ》は、最後にみんな死んでしまうおぞましいストーリーです。でも、シェイクスピアの最高傑作にヴェルディが音楽をつけたことでできあがった“宝物”を、どうぞ楽しんでください」

フィンリーの話をにこやかに聞くパッパーノ(左)

 ロイヤル・オペラ音楽監督を17年におよび務めて来られた理由は? と問われたパッパーノは、「オペラを愛し、歌を愛し、劇場を愛する。歌手を理解することも必要です。私自身が、新しいものだけを追い求めるのではなく、一つの作品を指揮すると、もう一度それを振りたくなると思うことも影響しているかもしれません」

 誰よりも早く劇場に来て、誰よりも遅く劇場から帰る…パッパーノのことをそう語った人がいたのを思い出した。
 壇上のパッパーノと歌手たちのなごやかさから互いに認め合い、信頼し合っていることがうかがわれる。それこそが舞台を成功させる原動力にちがいない。

会見中もお茶目なグリゴーロ
《オテロ》キャストとパッパーノ

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〜イルデブランド・ダルカンジェロ(バスバリトン) インタビュー

英国ロイヤル・オペラ2019年日本公演
《ファウスト》
2019.9/12(木)18:30、9/15(日)15:00、9/18(水)15:00 東京文化会館
9/22(日)15:00 神奈川県民ホール
《オテロ》
2019.9/14(土)、9/16(月・祝)各日15:00 神奈川県民ホール
9/21(土)、9/23(月・祝)各日16:30 東京文化会館
問:NBSチケットセンター03-3791-8888
https://www.nbs.or.jp/stages/2019/roh/