“ラディカル”なウィーンの巨匠、渾身のベートーヴェン
著名アーティストは世界の大都市に定期的に招かれているものだが、そんな時代にあってもブッフビンダーの名はウィーンと切り離せない。ハイドン、モーツァルト、ブラームス、そして何といってもベートーヴェンというこの音楽の都で活躍した作曲家をレパートリーの柱にし、厳しい耳を持つ聴衆を納得させてきたからである。ウィーン楽友協会では2019/20のシーズンに、ウィーン・フィルをはじめドイツ語圏の名門オーケストラ計5団体とベートーヴェンの5曲のピアノ協奏曲を連続演奏するが、これは同協会始まって以来のプロジェクト。そこでソロを担うブッフビンダーは現代の最もオーセンティックなベートーヴェン弾きと言っていい。
今回の来日では、「悲愴」「ワルトシュタイン」「熱情」という三つのソナタを披露。これらの作品で、ベートーヴェンはドラマティックなスタイルを一作ごとに探求し、古典的なソナタ観を塗り替える革命を起こす。いわば32曲の“新約聖書”のキモ中のキモを選曲した。
ブッフビンダーのスタイルは一見すると正統派のイメージ、悠然としたヴェテランらしさとはいささか異なる。時には10近い校訂譜を緻密に比較しつつ彼が表現するのは、その色あせないラディカルさだ。アレグロはエネルギーに満ちて足早に疾走し、巨大なクライマックスを築き上げる。演奏のたびに革命児ベートーヴェンが現前し、語り掛けてくるようなのである。言うまでもなく、この豪快さにはたくさんの仕掛けやアイディアが詰め込まれている。今回の三大ソナタで、その技をじっくりと賞玩しよう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年9月号より)
2019.9/23(月・祝)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp/