須藤慎吾(バリトン)

最高のキャスト、フランスを追い求めた音で《ホフマン物語》の神髄を!

C)Yuji KATO

今年中盤以降だけでも《蝶々夫人》《愛の妙薬》《ランスへの旅》《トスカ》《椿姫》《リゴレット》…と、主だった公演の主役級を、須藤慎吾ほど射止めている歌手はいない。現状、十分に超売れっ子だが、須藤はあぐらをかいてはいない。かなり意欲的な《ホフマン物語》の上演を企てているのだ。

「昨年パリで過ごした際、ベルリオーズ《ベンヴェヌート・チェッリーニ》をはじめ珍しい作品も上演されていて、内容も素晴らしかった。一方、日本では《蝶々夫人》《椿姫》《魔笛》などの繰り返しです。それらも良い作品ですが、ヨーロッパでは上演されているのに日本では有名とは言えない優れたオペラを、日本でもスタンダードなものにしていきたいと思って」

その際、意識したのがフランス・オペラだった。
「日本ではイタリアやドイツの定番作品は定期的に上演されても、フランス・オペラに触れる機会が少ないので、お客さんも求めないし、だから歌手も二の足を踏む。フランスの素晴らしいオペラにお客さんが触れ、歌手も躊躇しなくなるような環境作りをしたかったんです」

そう考え、須藤が立ち上げた団体がオペラノート(operanaut)だ。綺羅星だらけのオペラの宇宙を航海し、日本では生で聴く機会が少ないものを紹介する。オペラの宇宙飛行士(astronaut)だという意味が込められているという。最初に取り上げるのは《ペレアスとメリザンド》とも考えたそうだ。

「真っ先に賛同してくれたのがソプラノの天羽明恵さんで、彼女なら初演同様、女性全4役を一人で歌えるぞ、と思い、だったら《ホフマン物語》がいいと。天羽さんも“私もやりたかった”と言ってくれました」

リンドルフをはじめ4役を歌う須藤自身も、フランス・オペラならではの表現方法とその味わいへの思いは半端ではない。
「ある意味、イタリア音楽は劇画的ですが、フランス音楽はもっと詩のような表現で極度な誇張がない。そういうスタイルなのだと最近、気づきました。その抑制された美しさを出すうえで要になるのが、ピアノの江澤隆行さんです。フランス国立ライン歌劇場のコレペティトゥアでもあった方で、僕の考えを裏づけてくれる音楽性の持ち主です」

そんな音楽美を味わうには、演奏会形式が最適かもしれない。
「オッフェンバックが天才なのは、台本の不備を音楽で埋めているところ。説明的な演出をするよりは、集中して聴いていただいたほうがいいと思ったんです」
大劇場では気づけない《ホフマン物語》の神髄に触れられる、数少ないチャンスではないか。
取材・文:香原斗志
(ぶらあぼ2019年7月号より)

オッフェンバック生誕200年 オペラ《ホフマン物語》(演奏会形式)
2019.7/23(火)18:00 五反田文化センター音楽ホール
7/27(土)18:00 名古屋/宗次ホール 〈ハイライト版〉
問:YKA企画(吉川)090-6035-9262