キューブリックへのオマージュ? 興味が広がるプログラム
一夜のコンサートを成す選曲には、作曲年代やジャンル、編成や組み合わせの相性、得意分野かどうかなど、演奏者側の様々な意図や戦略が反映されるが、時に常識を大胆に踏み越え、私たちを思いがけない発見へと導いてきたのがジョナサン・ノット&東響だ。今回もふるっている。
現代音楽のスペシャリストとして名を馳せたノットが、とりわけ高い評価を受けてきたのがリゲティ。ユニークなアイディアを精緻に描き出す力は、作曲家自身からも篤い信頼を受けた。声部を細かく分けて重ねるマイクロ・ポリフォニーという手法が用いられた「レクイエム」には、ソプラノにサラ・ウェゲナー、メゾにターニャ・アリアーネ・バウムガルトナーという欧州を席捲する実力派を配して臨む。スタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』を彩り有名になった難曲に続いて東響コーラスが披露するのは、トマス・タリスの「スペム・イン・アリウム」。40声部に分かれたこのルネサンス期の無伴奏合唱曲は、マイクロ・ポリフォニーの遠い祖先とも言えよう。アマチュア合唱の風景が塗り替わるかもしれない。
2曲を挟むのは、二人のシュトラウスの作品。ワルツ王・J.シュトラウスⅡの優雅なワルツ「芸術家の生涯」ではじまり、R.シュトラウスの「死と変容」で締めくくる。人生の喜びを讃える前者に対し、後者はある芸術家が死との闘いを経て、魂を浄化させる様を描いている。曲は違うが、この二人の音楽は『2001年』にも用いられている。生と死、芸術と人生などの伏線を絡めつつ、ファンタジーが宇宙空間のように膨らむはずだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年7月号より)
第672回 定期演奏会
2019.7/20(土)18:00 サントリーホール
川崎定期演奏会 第70回
2019.7/21(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
http://tokyosymphony.jp/