【特別寄稿】セレーナ・マルフィのインタビュー&公演レポート 〜ボローニャ歌劇場《セヴィリアの理髪師》

超売れっ子、マルフィを中心に夢のキャストの愉悦

取材・文:香原斗志

C)Francesco Squeglia
 3月19日、6月のボローニャ歌劇場日本公演《セヴィリアの理髪師》でロジーナを歌うセレーナ・マルフィと無事に会うことができた。直前まで英ロイヤル・オペラで《コジ・ファン・トゥッテ》に出演していたので、本当にボローニャに来るのかと心配していたのだ。

「2日前にロンドンで公演を終えたばかりで、でも明日歌ったら、2日後には《ドン・ジョヴァンニ》を歌いにMETに行かないと。だけど、日本公演でロジーナを歌うのだから、最低1日はボローニャで歌ってほしいと言われて、都合がつくのが明日だけだったの」

 超売れっ子とは彼女のような歌手のことを言うのだろう。しかも、ほとんどのスケジュールは世界的な大劇場への出演で埋まっている。

 翌20日、マルフィの1回きりのロジーナを聴いた。しかし、彼女の“聴きどころ”に到達する前に、十分に魅せられてしまった。まず、アルマヴィーヴァ伯爵のアントニーノ・シラグーザが冴えている。しかも、若いころより声がみずみずしく、高音が輝かしく、弱音が美しいから不思議だ。シラグーザは今こそキャリアの頂点にいるのだろう。フィガロ役のロベルト・デ・カンディアは、開演前に喉を傷めているとのアナウンスが入ったが、それでも押し出しが利いた快活な歌を聴かせてくれる。

 そして、ロジーナのカヴァティーナ〈今の歌声は〉。マルフィの深いコントラルトの声は熟成した上等なヴィンテージ・ワインのようで、ボディがあり、細かく書かれた音符も薫り高く歌い上げた。世界で引っ張りだこになるのもうなずける。

「ロジーナはなかなか辛辣な少女で、ドン・バルトロのもとに閉じこめられてはいても、抜け目がないので、リンドーロと名乗る伯爵に手紙を渡し、恋を成就させてしまいます。私、いつも、この役に、私の性格に近いところを見つけて演じるようにしています。ロジーナの場合は、少しコミカルで、抜け目がないところ」

 自分と同化させられる役であれば、説得力も増すわけだ。
 この日は主要歌手5人が日本公演と重なったが、残りの歌手も水準が高い。ドン・バルトロのマルコ・フィリッポ・ロマーノは、滑稽な役づくりが堂に入っているが、決してドタバタにならない。面白さと上等なベルカントが同居しているのだ。ドン・バジリオのアンドレア・コンチェッティも深い声に品位がある。歌手がこうも揃うと、アリアも重唱も聴き応えがある。ロッシーニ復興の立役者、故アルベルト・ゼッダの薫陶を受けたフェデリコ・サンティの、シャンパーニュのような洒脱な指揮に煽られ、心地よい。趣味のよい演出が拍車をかける。

 そして、フィナーレで伯爵が歌う大アリアでは、めくるめく超絶技巧に客席は大興奮状態に。そんなシラグーザとは、「《セヴィリャの理髪師》では初めてですけど、《ラ・チェネレントラ》では何度も共演しています」とマルフィ。
 相性のよさも、双方の力が最大限に引き出されるための条件であるのは言うまでもない。現地ボローニャでは1回しか叶わなかったこのドリーム・キャストが、日本公演ではスタンダードだとは、贅沢である。


【公演情報】
ボローニャ歌劇場《セヴィリアの理髪師》
2019.6/20(木)18:30、6/24(月)15:00 Bunkamuraオーチャードホール
2019.6/22日(土)15:00 神奈川県民ホール

出演:アントニーノ・シラグーザ、ロベルト・デ・カンディア、セレーナ・マルフィ 他
*《リゴレット》公演、全国公演などの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

コンサート・ドアーズ
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