19世紀末のウィーンを代表する画家グスタフ・クリムト(1862〜1918)。東京では約30年振りとなる待望の展覧会『クリムト展 ウィーンと日本 1900』が、7月10日まで東京都美術館で開催している。
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グスタフ・クリムトは1862年、金工師の長男としてウィーン近くのバウムガルデンに生まれる。83年に画家の知人と弟・エルンストとともに美術館や劇場の壁画など室内装飾を手がけるグループ「芸術家カンパニー」を設立、92年にエルンストが亡くなるまで活動を行った。その後、ヨーロッパの中世美術や日本の浮世絵、琳派の影響も受け、金箔を多用した装飾的で官能的な女性像を描くなど、独自の学風を確立していく。1897年に結成した「ウィーン分離派」では初代会長を務め、絵画・彫刻・建築・工芸を融合した総合芸術をめざし、世界中に影響を与えていく。
本展は、2018年のクリムト没後100年、2019年の日本オーストリア友好150年を記念しての開催。油彩画に初めて本物の金箔を用いた、クリムトの「黄金様式」の時代の代表作《ユディトⅠ》など、世界屈指のクリムト・コレクションを誇るウィーンのベルヴェデーレ宮オーストラリア絵画館の監修のもと、初期の自然主義的な作品から、分離派結成後の黄金様式の時代の代表作、甘美な女性像や数多く手がけた風景画まで、日本で過去最多となる約25点以上の油彩画を展示し、クリムトの全貌を全8章で紹介する。
注目は、全長34メートルにおよぶ壁画《ベートーヴェン・フリーズ》の原寸大複製の展示だ。クリムトが40歳の頃に、第14回ウィーン分離派展(1902年開催)のために制作した傑作で、今回の展示は、分離派会館の地下に展示されているオリジナルを精巧な複製で再現したもの。
この第14回ウィーン分離派展は、出展する芸術家に対して、一つのテーマに沿った新作の制作を求め、マックス・クリンガーによる《ベートーヴェン像》(本展に出品)を契機として、ウィーン派の芸術家たちはベートーヴェンの音楽を主題とする作品を制作した。クリムトは、リヒャルト・ワーグナーの解釈によるベートーヴェンの交響曲第9番に着想を得て本作を制作。「幸福への憧れ」「敵対する勢力」「歓喜の歌」と、黄金の甲冑で武装した戦士が幸福を求めて敵に向かい、楽園に辿り着くまでの旅路を絵巻物のように展開している。本作は、作品技法などから革新的芸術家の位置づけを確固とした代表作だ。
そして、日本初公開となる《女の三世代》(1905年、ローマ国立近代美術館所蔵)は、縦横170センチと、壁画作品などを除けばクリムト最大作品の一つ。安らかに眠る幼子と、その子供を抱く若い裸体の女性、そして老醜を恥じるように顔を手で覆った年老いた女性を描いた本作は、クリムトが深い関心を寄せた「生命の円環」「生と死」というテーマを一画面に表した作品といえる。人間の一生を幼年期、青年期、老年期に分けて寓意的に表し、背後の灰色と黒は死あるいは滅びの象徴的表現とも見ることができる。
1873年に開かれたウィーン万国博覧会では日本館が好評を博し、その後の19世紀末のウィーンでは日本文化ブームが起こる。クリムトも日本美術を研究し、浮世絵や甲冑、着物など、日本の美術品の収集にも力を入れていたという。浮世絵の美人画を思わせる縦長の油彩画《女ともだちI(姉妹たち)》や、日本の着物をモティーフにしたと考えられるカラフルな布団の山に埋もれた大胆な構図の《赤子(ゆりかご)》など、日本への憧憬が垣間見える作品を紹介する。
また、生涯独身であったが常に女性に囲まれていたクリムトは、女性の肖像画や裸婦像も多く残す一方で、風景画を好んで描いていたことも特筆すべき点だ。生涯に約250点を描いたとされる油彩のうち、60点近くが風景画だという。モネら同時代の印象派の影響を受けながらも、独自の様式を生み出していった。
なお、現在、東京・六本木の国立新美術館では、18世紀中頃から19世紀末に至るウィーンの美術・音楽・ファッション・建築などを総合的に紹介する「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」展も8月5日まで開催中。クリムトが最愛の女性を描いた《エミーリエ・フレーゲの肖像》(1902年)をはじめとする油彩画と素描、ポスターなどクリムト作品47点を含む、世紀末ウィーンを彩った巨匠たちの名作を介した展覧会。こちらも必見だ。
■Information
クリムト展 ウィーンと日本 1900
会期:2019 年4月23日(火)~7月10日(水)
会場:東京都美術館
開室時間:9:30〜17:30(金曜日は20:00まで) ※入室は閉室の30 分前まで
休室日:5月20日(月)、27日(月)、6月3日(月)、17日(月)、7月1日(月)
https://klimt2019.jp/
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