今年8月14日から17日にかけて、川口総合文化センター・リリアで開催される「ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口 vol.1」の記者発表が、4月17日に同ホールで行われ、音楽祭芸術監督を務めるリコーダー、コルネット奏者の濱田芳通、プロデューサーの平井洋らが登壇した。
(2019.4/17 川口総合文化センター・リリア Photo:I.Sugimura/Tokyo MDE)
2019年は、ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452〜1519)の没後500年にあたる。世界中でさまざまなイベントが予定されており、パリのルーヴル美術館では10月から4ヵ月間にわたり大規模な展覧会が開催される。しかし、美術や建築、解剖学、自然科学や天文学など、さまざまな分野で業績を残したダ・ヴィンチが、優れた音楽家でもあり、楽器の発明・改良や現在で言うプロデューサー業を担っていたことは、あまり知られていない。ダ・ヴィンチは舞台のための仕掛けを発明するとともに、リラ・ダ・ブラッチョ(おそらくヴァイオリンの先祖)の名手でもあったという。同音楽祭では、そうしたダ・ヴィンチの知られざる側面に焦点を当て、同時代の音楽だけでなく、中世〜バロック期のさまざまな音楽や、それらにインスピレーションを受けた現代音楽なども交えて紹介する。
濱田は「ダ・ヴィンチの記念年ということで、かねがねやりたいと思っていたポリツィアーノの《オルフェオ物語》をついに上演します。多才な人物であったダ・ヴィンチのごとく、いろんなジャンルの才能が集まった音楽祭にできればと考え、この名を付けました。ダ・ヴィンチに関連した企画をミラノ在住の作曲家・杉山洋一さんにご相談した結果、古楽に加え、現代音楽の分野でも貴重なプログラムをお届けすることになりました」と趣旨を述べた。
核となる公演は、濱田率いる古楽アンサンブル「アントネッロ」と10名の歌手が出演するオペラ《オルフェオ物語》(8/14,8/15)。オペラは一般的に17世紀初頭に誕生したとされているが、それから約100年前、ダ・ヴィンチの時代にも、その萌芽とも言うべき祝祭劇が行われていた。そうした劇がしばしば音楽を伴っていたであろうことは容易に想像がつくが、多くは即興で演奏され、楽譜は残っていない。《オルフェオ物語》は、メディチ家に仕えた人文主義者・詩人のアンジェロ・ポリツィアーノによる台本で、上演に際し、ダ・ヴィンチが総合プロデュースを手がけたと推察されている。今回は、台本のみが現存するこの作品の音楽を濱田が復元し、オペラとして上演する試み。フロットラ(世俗歌曲の一種)や当時イタリアの楽壇を席巻していたフランドル楽派の作曲家の作品の旋律などをベースとして作曲するという。濱田は、「レチタール・カンタンド(後のレチタティーヴォ)の起源がここにあるのではないか」と語る。ストーリーは、モンテヴェルディやペーリと異なり、ギリシャ神話の筋書きそのまま(オルフェオは惨殺され、首だけになって歌う)となっているとのこと。キャストは、オルフェオ役の坂下忠弘(バリトン)、エウリディーチェ役の阿部雅子(ソプラノ)、プルート役の彌勒忠史(カウンターテナー)など。演出は中村敬一。
杉山がプロデュースする「ミラノのダ・ヴィンチ スフォルツァ家宮廷音楽と現代邦楽」(8/15)では、邦楽器のために書かれた杉山の新作「ダ・ヴィンチ頌歌」などの初演も行われ、この日の会見にも出席した本條秀慈郎(三味線)、長谷川将山(尺八)らが出演する。そのほか、朴葵姫(ギター)がルネサンス・バロック期のレパートリーに挑むリサイタル(8/17)、工藤あかね(ソプラノ)が14世紀のマショーの音楽と、ケージ、カーゲルといった現代作曲家の作品を歌う「LACHRIMAE(ラクリメ)〜涙の系譜〜」(8/16)、アントネッロのほか、メディオ・レジストロ、チパンゴ・コンソートなど古楽界をリードするアンサンブルとジャズの黒田京子・喜多直毅DUOらの演奏を一日で楽しめる「古楽リレーコンサート」(8/16)など、4日間にわたり、さまざまな分野のアーティストが登場する。期間中、音楽祭のオフィシャル アンバサダーを務める、金沢正剛(音楽学者)、矢澤孝樹(音楽評論)、いのうえとーる(人文科学エヴァンジェリスト)による無料トークイベント(8/15)も開催され、ダ・ヴィンチの人物像を多角的に掘り下げ、ルネサンス音楽に馴染みのない人にも楽しめる工夫がなされている。
ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口 vol.1
2019.8/14(水)〜8/19(土) 川口総合文化センター・リリア 音楽ホール/催し広場
問:ムジカキアラ03-6431-8186/リリア・チケットセンター048-254-9900
https://davinci.anthonello.com/