【特別寄稿】ボローニャ歌劇場《リゴレット》〜アルベルト・ガザーレのインタビュー&公演レポート

客席を熱狂させた「完璧なオペラ」

アルベルト・ガザーレ 
撮影:筆者
 「《リゴレット》は完璧なオペラ。ヴェルディの音楽にはすべてを統合する力がある。シンプルなのに深くて、正確で、ドラマが心に届くんだ」
 終演後の楽屋で、アルベルト・ガザーレはそう語った。全力を出し切った満足感を漂わせながら。

  まったく、その言葉が素直にうなずける公演だった。歌唱、演技とも役になりきり、それぞれの個性を発揮し尽くした歌手たち。ドラマが導くまま、時にドラマティックに時にソフトに、オーケストラをコントロールした指揮者。主人公たちの心の明暗を、明確に視覚化した演出。そのすべてが手を取り合って、《リゴレット》という稀有な傑作に奉仕していた。終演後のカーテンコールが爆発的なものになったのはその証拠だ。どよめきと歓声と足踏みの洪水。劇場は生きている!イタリアの劇場でこのような光景を目撃するのは、オペラファン冥利につきる。

 《リゴレット》は、ボローニャ歌劇場の今シーズンのハイライト演目のひとつだ。2016年に制作されたアレッシオ・ピッツェックのプロダクションは、家では人形を手放せないような幼いジルダが公爵と関係して「女」になる過程をあざやかに描く。危険が渦巻く「世間」を知るリゴレットは、ジルダを幼女のままにしておきたいが、それはできない相談だ。そして悲劇が起きる。

 イタリアを代表する世界的なヴェルディ・バリトンのアルベルト・ガザーレは、明瞭で豊かな美声と「歌う俳優」としての表現力を駆使して、苦悩する父親にして道化という難しい役を圧倒的な密度で表現した。リゴレット役は台本では背中に瘤があるという設定だが、今回は彼の希望で、瘤の代わりに腕に醜い傷を負っている姿で登場。このような設定だと、リゴレットがいつも自分の肉体の醜さと向き合っていることが強調され、彼の苦悩がよりくっきりと「見える」。そこに被さる劇的にして美しい音楽の効果的なことといったら!第2幕の名アリア「悪魔め、鬼め」は本公演のハイライト。とりわけせつせつとした哀願が繰り返される後半は、リゴレットの心のすすり泣きが手に取るように伝わる名唱だった。第2幕幕切れのジルダとの二重唱は、客席に渦巻く「ビス!」の声に応えてアンコールするというサービスぶりで、客席の興奮は最高潮に達した。ジルダを歌ったラーラ・ラーニは、22歳の若さながら抜群のテクニックを持ち、しなやかで澄んだよく通る声を存分に生かして、大ベテランのガザーレの相方を見事に務めていた。マントヴァ公爵役は、堂々としたよく響く美声をもつステファン・ポップ。「ちょいワル」に演出された公爵がぴったりとはまり、抜群の存在感を発揮した。

《リゴレット》より
©RoccoCasaluci TCBO

 指揮は国内外で順調にキャリアを積んでいるイタリア人指揮者、マッテオ・ベルトラーミ。オーケストラ、とくに弦楽器から細やかな表情と美しい響きを引き出し、《リゴレット》のオーケストラの雄弁さを改めて認識させてくれた。

 来日公演ではガザーレとベルトラーミに、セルソ・アルベロ、デジレ・ランカトーレらが加わる。16年のプロダクション初演でマントヴァ公爵を歌って絶賛を博したアルベロ、きらめく高音を生かしてジルダ役を得意にするランカトーレと、主役3人は目下それぞれの役の最高峰。万全の演唱で、「完璧なオペラ」を体現してくれることだろう。
取材・文:加藤浩子


【公演情報】
ボローニャ歌劇場《リゴレット》
2019.6/21(金)18:30、6/23(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール

出演:デジレ・ランカトーレ、アルベルト・ガザーレ、セルソ・アルベロ ほか
*《セヴィリアの理髪師》公演、全国公演などの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

コンサート・ドアーズ
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