上野を舞台に今年も多彩なプログラムが用意された「東京・春・音楽祭」。音楽祭は3月15日に開幕しているが、これからでも間に合う注目公演をいくつか挙げてみたい。
まずは第15回の節目の年を記念して開催される「The 15th Anniversary Gala Concert」(4/12 東京文化会館大ホール)。これまで音楽祭を飾ってきたオペラのなかから、ここぞという名場面を厳選して演奏する。歌手陣は「ガラ」の名にふさわしく豪華。ミーガン・ミラー、エリーザベト・クールマン、ペーター・ザイフェルト、ジョン・ルンドグレン、アイン・アンガーが一堂に会す。オペラを知悉する名匠、フィリップ・オーギャンが、好調の読響を指揮する。《ニーベルングの指環》や《パルジファル》などワーグナー・シリーズの傑作や、チャイコフスキーの《エフゲニー・オネーギン》、R.シュトラウスの《エレクトラ》など、振り返ってみれば重厚な作品が多かったことに気づく。単なるハイライト集という以上の聴きごたえを残してくれることだろう。
この音楽祭ではトップレベルの歌手たちによるリサイタルも大きな聴きものだ。今回は世界屈指のバスバリトン、ブリン・ターフェル(3/28 同小ホール)を筆頭に、バスのアイン・アンガー(4/8 同)、カウンターテナーの藤木大地(4/13 同)がそれぞれ趣向に富んだプログラムで歌曲の夕べを開く。今自分が歌いたいものを歌う。そんな意気込みが伝わってくるようなプログラムばかりだ。
ヴィオラ独奏のリサイタルもある。ベルリン・フィル第1ソロ・ヴィオラ奏者として、またソリストとして活躍するアミハイ・グロスが、ショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタ、ブラームスのヴィオラ・ソナタ第1番他を演奏する(3/29 同)。ヴィオラの深みのある音色だからこそ表現可能なソロを堪能できるはず。
企画力が光るのは「ベンジャミン・ブリテンの世界Ⅲ」(4/7 東京藝術大学奏楽堂)。作曲家でピアニストの加藤昌則が、20世紀イギリスを代表する作曲家ブリテンの魅力を伝える。今回主役となるのは合唱曲。合唱はハルモニア・アンサンブル、ハープは山宮るり子。これだけブリテンの作品をまとめて聴ける機会は貴重。
興味深い企画といえば「クララ・シューマン――生誕200年に寄せて」も忘れるわけにはいかない(4/5 旧東京音楽学校奏楽堂)。ロベルト・シューマンの妻クララは生前ピアニストとして名声を誇っていた。150年前に50代のクララが行った演奏家として最後のコンサートを再現しようというのがこの演奏会。ピアノの伊藤恵を中心に、ヴァイオリンの加藤知子、ソプラノの菅英三子、ホルンの日髙剛らが、室内楽、歌曲、ピアノ独奏曲を演奏する。当時のプログラム構成を追体験できるおもしろさがある。
美術館の特別展とのコラボレーションも今年は一段とバラエティに富んでいる。東京都美術館の「クリムト展」と「奇想の系譜展」、国立西洋美術館の「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ」展、上野の森美術館の「VOCA展」にそれぞれ連動するコンサートが開かれる。アートとコンサートを一度に楽しむ。最高のぜいたくだ。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2019年4月号より)
*公演中止および出演者変更のお知らせ
3⽉に来⽇を予定していたアイン・アンガー(バス)は、2⽉末より逆流性とみられる裂孔ヘルニアの症状があり、3⽉16 ⽇に外科治療を受けましたが、完全な回復には時間を要するとの医師の判断により、今回の来⽇を中⽌せざるを得なくなりました。 これに伴い、4⽉8⽇(⽉)に予定していた、「東京春祭 歌曲シリーズ vol.26 アイン・アンガー(バス)」は開催を中⽌させていただきます。
なお、4⽉5⽇(⾦)、4⽉7⽇(⽇)「東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.10《さまよえるオランダ⼈》」及び4⽉12⽇(⾦)「The 15th Anniversary Gala Concert」に関しては、イェンス=エリック・オースボー(バス)に出演者を変更し、開催いたします。(4月1日主催者発表)
http://www.tokyo-harusai.com/news/news_6420.html
東京・春・音楽祭 2019
2019.3/15(金)〜4/14(日)
東京文化会館、東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、旧東京音楽学校奏楽堂、上野学園 石橋メモリアルホール、国立科学博物館、東京国立博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館、東京キネマ倶楽部 他
問:東京・春・音楽祭チケットサービス03-6743-1398
http://www.tokyo-harusai.com/