インバルの魅力全開、ショスタコ春の嵐
この3月、1年ぶりにエリアフ・インバルが東京都交響楽団の指揮台に立つ。常に高い機能性と誠実な演奏を誇る都響だが、長年にわたり同団を鍛え上げたインバルの登壇となると、聴衆も含めてやはり特別な空気が漂う。特に今年は福岡と名古屋でも特別公演を行うということで、広く期待が高まっている。
特別公演とA定期(3/26)の演目は、1曲目はブラームス「悲劇的序曲」、メイン曲はショスタコーヴィチの人気作、交響曲第5番。後者はスターリンの恐怖政治下で書かれ、作品の真意について様々な解釈や意見が絶えないことでも知られるが、今回はこの作曲家を殊に得意とするインバルだけに、彼ならではの質実剛健なサウンドで、その奥深い真髄を聴かせてくれるはず。
2曲目には、インバル&都響と2度目の共演となる、世界的チェリストのガブリエル・リプキンが登場。彼独特の音色と表現が楽しみだが、演目にも注目したい。A定期で選ばれたのは、スイス生まれのユダヤ人作曲家、ブロッホの代表作「シェロモ」。タイトルは、古代イスラエルを繁栄させた名君ながら、後年は享楽にふけり国を混乱に陥れた「ソロモン王」のこと。イスラエル出身のリプキンとインバルの共演で聴けるのは貴重だし、前後の曲も併せると重いメッセージが浮かぶ、意味深長なプログラムではないだろうか。一方、福岡と名古屋の2曲目はチャイコフスキーの典雅な名品「ロココ風の主題による変奏曲」。こちらはタイプの異なる名作が並び、定期とはまた違う形でコンサートの喜びを満喫できそうだ。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2019年3月号より)
福岡特別公演
2019.3/23(土)15:00 福岡シンフォニーホール
名古屋特別公演
2019.3/24(日)14:00 愛知県芸術劇場 コンサートホール
第874回定期演奏会 Aシリーズ
2019.3/26(火)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド0570-056-057
https://www.tmso.or.jp/