東京混声合唱団記者会見

 日本を代表する老舗プロ合唱団・東京混声合唱団(東混)が、来季からの新体制の発表会見を開いた。
(2018.9/10 東京・西早稲田 トーキョーコンサーツ・ラボ)

左より:キハラ良尚、信長貴富、山田和樹
写真提供:東京混声合唱団

 会見は音楽監督兼理事長の山田和樹が進行役を兼ねる形で、まず新常任指揮者就任の話題から。2013年に松原千振(現・正指揮者)が退任して以来空席だったポストに、19年4月から若手指揮者キハラ良尚(よしなお)が就任する。1987年生まれの31歳。抜擢、と言ってよいだろう。任期は3シーズン。常任指揮者としての初指揮は来年40回目を迎える恒例の「東混 八月のまつり」(2019.8/9)となる。
 キハラは東京藝術大学附属高校ピアノ科卒業後にウィーンとグラーツ、さらにベルリンで学び、歌劇場のコレペティトゥーアなどヨーロッパでキャリアをスタートして今年帰国した。プロ指揮者としての本格的な日本デビューは2016年のウィーン楽友協会合唱団の来日公演。東混ではすでに昨年4月の定期演奏会などを指揮しており、合唱団からの信頼も厚い。ちなみに姓をカナ表記にしているが、東京生まれの日本人(本名「鬼原」)。会見では「東混の発展に少しでも力になりたい」と簡潔に決意を語った。
 日本を不在にすることも多い山田は、「常に合唱団と一緒にいる、本当の意味での『常任』を探していた。感覚的な自分と違い、キハラさんはイメージを言語化するのが上手な人」と期待を寄せた。

 続いて作曲家・信長貴富のレジデントアーティスト就任が発表された。現在藤倉大が務めているポスト(16〜18年)だが、「レジデントアーティストであって、レジデントコンポーザーではない」と山田。作曲家が続いたのはたまたまで、新曲の委嘱だけではなく、さまざまな形で力を貸してほしいと語った。
 アマチュア合唱界で絶大な人気を誇る信長は、「東混を、アマチュアの合唱の人たちにも親しみを持ってもらえるような何かができれば。プロとアマは地つづき。互いに意識しつつ活動できればいい」と抱負を述べた。信長の任期も19年4月からの3シーズン。

 来季の定期演奏会には、尾高忠明、沼尻竜典、そして山田和樹という著名オーケストラ指揮者たちが登場。特に10月の第250回定期と大阪いずみホール定期で三善晃の「嫁ぐ娘に」を振る尾高は、(管弦楽を伴わない)合唱曲の指揮初体験。大ベテランが、自身にとって新鮮な、合唱という媒体でどんな表現を聴かせてくれるだろうか。

 山田は東混の現状を「変革期」と呼ぶ。どうやらそれは、音楽的にも、経営的にも、ということのようだが、信長の起用や、合唱コンクールの課題曲コンサートの開催などに窺われる、アマチュアとの接点を模索する姿勢もその「変革」の一環だろう。「合唱界全体のオピニオン・リーダーでありたい」。山田の掲げる理想が、若いキハラとのタッグでどのように実現されてゆくのか。東混の新たな地平が拓かれる過程を、期待とともに見つめたい。
取材・文:宮本 明

東京混声合唱団
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