ギターを軸とした小宇宙的世界を愉しもう
毎夏の恒例となった音楽祭であり、世界へとアピールできそうなプログラムとクオリティでファンを魅了している《Hakujuギター・フェスタ》。荘村清志と福田進一というクラシック・ギター界をリードする両輪がプロデューサーを務め、ひとつのテーマから広がる多彩なプログラムによって、ギター音楽の広さと深さを提示してくれる貴重な音楽祭だ。8回目となる今年のテーマは「バロック」。時代、作曲家という切り口はもちろん、現代において「バロック」という言葉の意味する範囲や新しい方向性なども考慮され、単に「バロック音楽」を演奏するだけには止まらないプログラムが用意されている。
この音楽祭に2年目(2007年)から参加している大萩康司も、企画の広がりに期待し、自らも演奏者として意欲的な作品を弾いてきた。
「ギターの音楽祭は各国・各地にありますが、毎年新曲を委嘱したり、他のジャンルの方と普段ではできない共演プログラムが用意されるなど、こんな可能性があったのかと思えることが体験できるものは極めて少ないですね。プロデューサーであるお二人ありきの音楽祭ですし、精根尽き果てるまで続けていただきたいと願っています。私自身が積極的に参加したくなる音楽祭でもあります。特に新曲に関しては、この音楽祭で委嘱・初演された曲をほかのコンサートで再演する機会が多く、ギター界の財産になっているでしょうね。たとえば渡辺香津美さんのギター・デュオ作品『イチジクとザクロ』(2010年初演)は、その後も福田さんと自分が海外公演で弾いたり、村治佳織・奏一デュオが演奏したりするなど、確実に広がっています」
その新作、今年は先鋭的なピアニストとして注目されるフランチェスコ・トリスターノに委嘱し、J.S.バッハ作品を並べたプログラム(8/31)の中で世界初演される予定。これまでの来日公演でも、ピアノ演奏だけではなくその感度鋭いセンスによる作曲や即興などで新しい世界を創造した彼だけに、どのような曲になるのか演奏者も楽しみにしているという。
J.S.バッハ作品によるコンサートは、荘村と福田それぞれの演奏とギター・アンサンブルによる演奏が聴ける(8/31)。そこにも登場する山田岳は、近年の新作をはじめ多くの現代作品を演奏しているという、ギター界ではすでに有名な存在だ。彼がエレクトロニクスの有馬純寿をゲストに迎えて行うリサイタル《旬のギタリストを聴く》(8/31)は、まさにギターという楽器のあり方や音の存在感を一新するような可能性を秘めている。
「彼は常に自分を刷新し、自分のために書かれた作品をはじめとする多くの現代作品を演奏し続けています。まさにギターの最先端を切り開くべきアーティストなのです。このシリーズではやや異色の存在ですけれど、もっと広く知られるべき人なのです」
もちろん大萩自身も出演し、最終日にヴィヴァルディの作品集を演奏する。