この秋、アリス=紗良・オットが“ナイトフォール”をテーマとしたプログラムで全国9公演のリサイタル・ツアーを開催。それに先駆けて、同タイトルのアルバムもリリースする(ユニバーサルミュージック、8/24発売)。
「“ナイトフォール”とは、日の入りの直後、闇と光の世界が混ざり合う時間のこと。日本語だといろいろな表現がありますが、私が一番イメージに合うと思うのは“逢魔時(おうまがとき)”という言葉。薄暗く、魔物が現れやすいとされるミステリアスな時間です」
人が持つ光と闇という“人間のナイトフォール”にも着目し、フランスものを中心に作品を選んだ。
「例えばドビュッシーの『月の光』は、美しくロマンティックな曲だと思われているかもしれませんが、私は昔から、裏に何かが隠されているように感じていました。実際、作品のインスピレーションの源となったヴェルレーヌの詩を読んで、幸せそうな仮面の下に逆の顔を隠した人々が描かれていて納得したのです。また、ラヴェルの『夜のガスパール』には、人が感じるすべての恐怖が含まれていると思います。サティの『グノシエンヌ』は、楽譜に“頭を開いて”とか“舌にのせて”など、謎めいた言葉が書かれていて、まるでピンク・フロイドの歌詞のよう。いろいろな解釈の可能性があるので、何度も弾いていくうちにどう変化していくのかも楽しみです」
あわせて演奏されるのは、ショパンのノクターンとバラード第1番。アリスは、 「ショパンの作品が描くドラマには派手さはなく、表情を変えないままに涙が頬を伝って流れていくよう」と話す。
デビューから10年がたった今、物語性のあるプログラムを好むようになったという彼女。“ナイトフォール”をテーマに選んだ背景には、どんな想いがあるのだろうか。
「私はもともと単純でポジティブな性格なので、正反対のものに惹かれるところがあって。明るい人は影のある人に惹かれ、その逆もありますよね。今年30歳を迎え、考え方も変化する中、今回はしっとりとしたプログラムもいいなと思ったのです」
普段クラシックを聴かない層をも魅了する彼女の活躍ぶりは、音楽界で注目を集めている。
「音楽って、せっかく音を楽しむという素敵な字が使われているのですから、リラックスして楽しめなくてはいけないと思うのです。例えば私がピアノを裸足で弾く理由は、舞台でリラックスしていたいから。これを始めてから、演奏会のルールについていろいろと考えるようになりました。お客さまもライヴ音楽において大切な一部。身近な存在としてそこにいて、一緒に音楽を作ることが理想です」
裸足で、自由に軽やかに音楽を奏でるアリスに導かれて、光と闇の世界を探訪するひとときとなりそうだ。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2018年8月号より)
アリス=紗良・オット ピアノ・リサイタル
2018.9/27(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
2018.9/15(土)〜9/25(火) 川口、前橋、大阪、熊本、仙台、広島、名古屋、東京
※全国公演の日程は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.japanarts.co.jp/