本名徹次(指揮)

ベトナム国立響独特の音や色を聴いてください

C) Hai Nam Nguyen
 本名徹次は、2000年名古屋フィルのアジア・ツアーでベトナムを訪れた際、「ゴッホの絵のような路上屋台の裸電球のオレンジ色に惹かれ」、「当時ソリストを務めたチェロ奏者に乞われるような形で」01年2月にベトナム国立交響楽団を指揮。以来関係を継続し、09年からは音楽監督を務めている。
「団員は全員ハノイ音楽院の出身。私は年40公演、定期10公演のうち、約半分を指揮しています。最初は唖然とすることばかりでした。しかし、ベトナム語が6声調(1音に6つの発声がある)であるがゆえに、微妙な音を聴き分ける人たちである点と、古い歌が好きで皆いくらでも民謡を歌える“圧倒的なメロディ文化”が相まって、最近は繊細で懐かしさを覚える響きが聞こえるようになってきました。大げさに言うと“世界遺産的な音”を出す楽団。そんな独特のカラーがあると思います」
 これまで04、08、13年に来日。そして今年7月、日越外交関係樹立45周年を記念して4度目の日本公演を行う。
「9月にN響がベトナムに来るので、ベトナム国立響も日本に行き、お互いの国で演奏するのが45周年の要になる、ということで急遽実現しました。しかもサントリーホールとザ・シンフォニーホールが奇跡的に空いていて、東京と大阪の素晴らしいホールで公演ができます」
 プログラムは、ドヴォルザークのチェロ協奏曲と交響曲第9番「新世界より」が中心。
「ドヴォルザークの詩的で抒情的な音楽は、ベトナム国立響にとても合っていると思います。また、有名な曲を聴いていただいて、この楽団がどのくらい良くなったのか? まだまだなのか? を感じてもらいたいと考えました」
 チェロ協奏曲のソロは、「音にも人柄にも惹かれた」という人気奏者の宮田大。同曲は「最近、堤剛さんと演奏しています。また、ベトナムで宮田さんと一緒に仕上げた上でこのツアーに臨みます」とのことだ。
 もう1つ、地元作曲家チョン・バンの序曲「幸せを私たちに運んでくれた人」が興味をそそる。
「バンさんは、不幸な戦争の間、ロシアに渡った音楽家の一人で、存命中だったショスタコーヴィチ等の影響を受けた作曲家。ホーチミンを想って書かれたこの曲には、幸せや国への愛が込められており、ベトナム情緒に溢れたメロディもショスタコの5番のような箇所も出てきます。特に好きなのは、途中でゆっくりと行進する場面。『勝ったので、またのんびり暮らそう』といった感じがいかにもベトナムらしい」
 同楽団は、マーラーの交響曲全曲やR.シュトラウスの多くの楽曲等を演奏。アジア各国のほか、米国、イタリア、ロシアへツアーを行い、近年はN響とも協力体制をとっている(N響のメンバーがベトナム国立響のセクションの首席として演奏したり、ベトナム国立響のライブラリアンが日本に研修に訪れたりしている)。上昇機運にあるこの個性派オーケストラの音楽に、今回ぜひ触れてみたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2018年6月号より)

本名徹次(指揮) ベトナム国立交響楽団
2018.7/18(水)19:00 ザ・シンフォニーホール 
2018.7/20(金)19:00 サントリーホール
問:クレオム03-6804-6524/ザ・シンフォニー チケットセンター06-6453-2333(7/18)
  サントリーホール チケットセンター0570-55-0017(7/20)