亡き支援者に捧げる入魂の演奏会
欧州で研鑽を積み、2002年カザルスホールでの日本デビュー・リサイタル以来、世に埋もれた知られざる名曲に光を当てるような独自の視点と、情緒纏綿たる演奏で注目を集めてきた鬼才ヴァイオリニスト、佐藤久成。20世紀の後半、歯に衣着せぬ辛口さと個性的な文章で日本のクラシック・シーンに多大な影響を与えた音楽評論家の故・宇野功芳も、その熱烈なる支援者のひとりであった。
「宇野先生には心から感謝しています。僕のことをいつも気にかけて下さり、何とか羽ばたかせようと後押ししてくれた。ポジティヴな考え方から学ぶことも多かったし、会うと音楽の話が尽きずに時の経つのも忘れる程でした」
5月にサントリーホールの大ホールで開催されるリサイタルは、そんな故人に捧げるメモリアル公演。ベートーヴェンの第5番「春」やシューマンの第2番などよく知られたソナタにも、入魂のプレイが期待される。
「いつもの演奏会と同じですよ(笑)。とにかく暇さえあれば楽譜を何度も読み込んで、ただ全力で弾くだけです」
ラフマニノフ「ジプシー・ダンス」は、10年録音の秘曲・小曲集『哀傷のラメント』の冒頭を飾る楽曲。
「先生との交流が始まるきっかけとなったアルバムです。この曲を聴いた先生から熱いお手紙をいただいて!」
モーツァルトのハフナー・セレナーデやプロコフィエフのバレエ曲など、編曲ものも楽しみだが、やはり宇野功芳がアルバムのライナーノーツ中で「壮絶」「圧巻」と絶賛コメントを寄せているヴィエニアフスキ「華麗なるポロネーズ第1番」(『オード・エロティーク』収録)とラヴェル「ツィガーヌ」(『HISAYA 魔界のヴァイオリンⅡ』収録)は聴き逃せない。
「特に『ツィガーヌ』は、先生が最初に聴きに来て下さった僕のライヴで気に入って、絶対に録音した方がいいと強く勧めてくれたことが今も忘れられません」
ピアノはお互いがドイツにいた頃からの知り合いという岡田将が担当。
「帰国後も、伊福部昭の協奏曲全2曲に挑んだ世界初録音盤CD(2006年)や、フルトヴェングラーのヴァイオリン・ソナタ2曲だけのコンサートなど、マニアックな企画を一緒にやっていますので絆は固いのです(笑)」
宇野への想いや自身の音楽家としての哲学は、ステージから客席全体に伝わるはずだ。
「先生の言葉を胸に、これからも弛まぬ努力を続け、演奏家として進化できるよう頑張ります。どうかご期待下さい!」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2018年4月号より)
佐藤久成 ヴァイオリンリサイタル 〜宇野功芳メモリアル〜
2018.5/25(金)19:00 サントリーホール
問:コンサートイマジン03-3235-3777
http://www.concert.co.jp/
他公演
2018.5/23(水)愛知/宗次ホール(052-265-1718)