東 誠三(ピアノ)

ドビュッシーのイマジネーションを色鮮やかに魅せる

C)寺澤有雅

 2016年から新しいリサイタル・シリーズを開始した東誠三。ショパン、リストと続いてきたが、今回は東にとって重要な作曲家であり、没後100年を迎えたドビュッシーを取り上げる。初期の「ベルガマスク組曲」に「12の練習曲」、そして「忘れられた映像」や「喜びの島」など、ドビュッシーの全時代の様式を俯瞰できるプログラムとなっている。
「今回、核となるのは、以前から全曲まとめて弾きたかった『12の練習曲』です。ドビュッシーは『前奏曲集』で成功を収めましたが、同時に、ある程度彼の作品に対するイメージがどこか固まったものになってしまった。ドビュッシー自身、そこから脱却したかったし、他にもやりたいことがたくさんあった。『練習曲』はそういった想いを強く感じる曲集です」
 洗練されたピアノ技法がふんだんに使われているということ以外にも、ドビュッシーの思想が透けて見えてくる作品であり、さらには時代を先取りする革新性にも満ちている。
「ドビュッシーは浮世絵やガムラン音楽など、東洋的なものに惹かれていましたが、ヘレニズムやギリシャ神話など、“古代”に対しても強い愛着を示していました。例えば『4度音程のための』にはその古代への感覚があらわれています。また『対比された響きのための』では、彼は時間を操るように、ある響きがどのタイミングで鳴るべきかを細かく楽譜に指示しています。これはジョン・ケージらが行ったことの先駆けともいえることで、当時は誰も行っていないことでした」
 今回、演奏される機会の少ない「忘れられた映像」が取り上げられるのも注目だ。
「生前出版されなかった若い頃の作品ということで、響きの密度の濃さや展開の仕方など、後年の作品に比べればもちろん“若さ”があるのですが、彼の魅力は既に存分に発揮されていて、埋もれさせておくには勿体ない作品です」
 「忘れられた映像」の第3曲「嫌な天気だから『もう森へは行かない』の諸相」は同名のフランスの童謡をもとに書かれた。ドビュッシーは子どもの世界にも強い愛着を示しているという。
「ドビュッシーは子ども時代のことを積極的には言及していないのですが、彼にとって子ども時代の体験や印象は重要な創作の源泉であり、作品に投影されていると思います。この『忘れられた映像』もその一つではないでしょうか」
 フランスの正当なピアニズムを受け継いだ東によるオール・ドビュッシー・プログラムは、ドビュッシーのあらゆるイマジネーションの世界を色鮮やかに魅せてくれるはずだ。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2018年4月号より)

東 誠三 ピアノ・リサイタル
2018.5/20(日)14:00 東京文化会館(小)
問:ムジカキアラ03-6431-8186 
http://www.musicachiara.com/