─盤石の布陣による演奏、そして美しい舞台に期待─
びわ湖ホールが「プロデュースオペラ」として、来年3月にワーグナー《ワルキューレ》を上演する。“びわ湖リング“と呼ばれる4年連続のプロジェクトの2年目で、いよいよ人気作の登場である。今年の第1作《ラインの黄金》の大成功を受け、記者会見でびわ湖ホール芸術監督の沼尻竜典はその意気込みを語った。
「欧米で歌劇場の格付けでは、《指環》が上演できる劇場とできない所という基準があるが、びわ湖ホールが“できる劇場”になったことは喜ばしい」
確かに日本では、現時点で新国立劇場とこのびわ湖ホールしかない。今回の制作意図の一つは「ワーグナーのト書きの理想を実現することで、《ラインの黄金》ではかなりうまくいきました」と沼尻も語るとおり、ミヒャエル・ハンペの演出とヘニング・フォン・ギールケの装置・衣裳、COSMICLABのプロジェクション・マッピングを駆使した極めて面白い舞台となった。この《ラインの黄金》はよくあるように単にラインの河底ではなく、宇宙のカオスから始まる。その混沌から水底に変わる色彩が実に美しかった。ラインの乙女の映像の泳ぐ姿から実物の歌手への移行もスムーズ。大詰めの神々のワルハラ城への入場もト書きどおりの「虹を渡る」舞台を初めて見せてくれたのだ。
沼尻は、管弦楽の京都市交響楽団のレベルの高さとともに、今回のキャストにも自信をのぞかせる。
「ブリュンヒルデのステファニー・ミュターはエアフルト歌劇場専属で、リューベックで指名オーディションを行い選びました。びわ湖はリハーサルに6週間取るので有名歌手は敬遠しますが、その分若手有望歌手を選べる。国際標準の演奏に耐えられる歌手を自信をもって選ぶことができました」。
会見に出席したブリュンヒルデ役の池田香織(4日出演)も「ブリュンヒルデは初役での挑戦となりますが、マエストロとじっくり話し合って決めました。ブリュンヒルデは若くてキャピキャピした(笑)イメージですが葛藤もある。これまでの経験値とやる気と冒険心をもってお互いに刺激し合いながら取り組みたい」と抱負を述べた。
《ワルキューレ》は8人のワルキューレ(戦乙女)の重唱も聴きものだ。沼尻も慎重に人選したという。池田も「日本人のアンサンブル力は“超”上手い」と太鼓判を押す。それぞれの顔ぶれを見ても重厚かつ精妙な重唱が期待できるだろう。また沼尻はびわ湖のスタッフの良さも力説する。
「あらゆる点で繊細にコントロールされ、チェックとバランスが良く、何をやるにも非常にスムーズ。海外の劇場ではこうはいきません」
《ワルキューレ》は《ラインの黄金》に劣らずスペクタクルな場面に事欠かない。それをハンペ演出がどう見せてくれるか。第1幕で陰鬱なフンディングの館が一瞬で春の野に転換する場面、魔剣ノートゥングをどう引き抜くか、第2幕のジークムントの死の予告、ジークムントとフンディングの決闘、第3幕天馬に乗って天翔るワルキューレたち、ジークリンデへのジークフリート受胎告知、ブリュンヒルデを取り巻く魔の炎など、見所満載の美しい舞台が今から大いに楽しみだ。
取材・文:横原千史
(ぶらあぼ2017年12月号より)
びわ湖ホール プロデュースオペラ
ワーグナー《ニーベルングの指環》第1日《ワルキューレ》
2018.3/3(土)(完売)、3/4(日)各日14:00 びわ湖ホール
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136
http://www.biwako-hall.or.jp/