迫 昭嘉(ピアノ)

“年末恒例”2台ピアノ版「第九」

C) Akira Muto

東京芸術大学大学院修了後、ミュンヘン音楽大学で学び、ジュネーヴ国際音楽コンクールやハエン国際ピアノコンクールに入賞。ベートーヴェンのソナタ全曲演奏にも取り組み、「ドイツ・ピアニズムの本流を継承する名手」と評される迫昭嘉。2015年末から2台ピアノによる「迫昭嘉の第九」をHakuju Hallで開催し、今年で3度目となる。
「2台ピアノ作品は、仲間で弾いて楽しむために書かれたものも多いですが、この曲はベートーヴェンの交響曲を広く紹介する目的で書かれた異質なもの。なにせ編曲者がリストですから、作曲家と作品への敬意があり、ピアノ表現の魅力も存分に活かされています。弾くには体力もいるので楽しんで弾ける曲ではありませんが…。最初は、長い曲で合唱も登場しないので、お客さんが飽きてしまうのではという心配もありましたが、みなさん口パクで歌っていらしたりして(笑)。毎年来てくださる方も多いです」
今年の2台ピアノの共演者は、迫が長年のイタリア生活から戻り、東京芸大で教え始めた時に1年生だった、いわば初代の生徒の一人、有吉亮治。
「彼は流れの良い音楽性を持ち、アンサンブル能力も高いピアニスト。教え子と一緒に演奏する機会はなかなかないので、初共演です」
指揮者としても活動する迫は、原曲の「第九」を振った経験もある。それぞれにどんな違いを感じるのだろうか。
「オーケストラ版では、大人数で演奏することで、ベートーヴェンが表現しようとした、調和を皆で勝ち取る感覚が自然と伝わります。一方2台ピアノ版だとそれが難しい代わりに、普通はオーケストラの中に紛れて分からない作品の構造がクリアになるところが魅力です」
2台ピアノによる「第九」に、Hakuju Hallという空間はちょうど良いという。
「普通この規模のホールだと音が充満しがちですが、天井が高く、包まれるような響きが実現します」
一方、「第九」の前に披露するベートーヴェンのチェロ・ソナタ第3番で共演するのは、旧知の仲である上村昇。
「最初の出会いはジュネーヴのコンクールに参加したとき。上村さんはピエール・フルニエ先生のもとに留学中で、和食をご馳走してくださったり、いろいろ応援してくれましたね。古い仲間との共演は、一緒に音を出した瞬間に記憶が蘇り、お互いの変化にも気付く。クラス会をやるような楽しさがあります」
最後に、年末に「第九」を聴く良さとベートーヴェンの魅力を聞いた。
「彼の作品には、精神の自由のためには絶対に譲らないという強さ、反骨精神が込められています。四六時中弾いていたら身がもたないくらい。『第九』の物語は、今年を振り返り、また来年元気に進んでいくという年末にぴったりの内容です。聴いても弾いてもスッキリし、エネルギーを受け取って来年も頑張ろうと思える作品。ぜひ聴きにいらしてください」
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2017年12月号から)

迫 昭嘉の第九 vol.3
2017.12/23(土・祝)15:00 Hakuju Hall
問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700
http://www.hakujuhall.jp/