青柳 晋(ピアノ)

マズルカはまるでショパンの日記のようです


 ピアニストの青柳晋がライフワークとして取り組む自主企画リサイタルシリーズ「リストのいる部屋」。12年目となる今年は、青柳が以前から構想していたという、リストとショパンのマズルカを合わせたプログラムを取り上げる。
「ショパンが若き日から死の直前まで書き続けたマズルカのうち、人生の節目に書かれた作品を選びました。散文詩的なやわらかさのあるマズルカの間に、リストの『超絶技巧練習曲集』の終わりの4曲を、“ブックエンド”のように置いてあります」
 遺作を集めた最後の「マズルカ集op.68」の1曲目で、実際には初期作品であるop.68-1で始め、op.30、op.56、絶筆となったop.68-4他を年代順に並べて生涯を追う。
「ショパン晩年のマズルカからは、何かが朽ち果て、息絶えていく気配を感じます。一方のリスト『超絶技巧練習曲集』には華やかなイメージがあるかもしれませんが、最後のほうの作品にはダークな要素が漂い、後期作品に通じるものを感じるのです」
 青柳がショパンの魅力に目覚めたのは、1980年ショパン国際ピアノコンクールのドキュメンタリー番組を観て、ライヴ録音のレコードを買ってもらったとき。
「当時の入賞者だったシェバノワさんや海老彰子さんなどの演奏が入っていました。中でも優勝したダン・タイ・ソンさんの『エチュードop.25-4』がすばらしくて。彼の演奏を聴くと、ショパンが生きていたら喜ぶだろうと感じます。この頃、ショパンへの意識が変わりました。毎晩寝るときにソナタ3番の3楽章を聴いて、昔の思い出ってなんだろう…と考え、切ない気持ちになりました。まだ9歳の子どもだったのですが(笑)。ショパンは、例えばベートーヴェンのように前に向かって突き進むというより、“後ろに置いてきたものを慈しむ”ような、過去を大切にするタイプの音楽家だと思います」
 こうしてショパンは特別な作曲家となったが、「子どもの頃は何も考えずに弾けていたのに、難しさを知って、逆に一番遠い存在になった」時期もあった。そんなショパンのマズルカに改めて取り組もうと思ったのは、畏れを感じていた作品に対して、「肩の力を抜いてアプローチできるようになった」ことが大きい。
「ポーランドらしい本物のリズムとは何かということは大切ですが、そこに固執しすぎず、自分になじむ感覚で弾くショパンがあっても良いのではと思えるようになったのです。ショパンはまるで日記のように、マズルカでその時々の想いを綴りました。その側面にフォーカスした表現を求めていきたいですね」
 今の青柳が見出したマズルカの表現はもちろん、リストの作品に支えられた曲順で聴くことで、そこから何が見えてくるのかも楽しみなところだ。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2017年12月号から)

青柳 晋 自主企画リサイタルシリーズ リストのいる部屋 Vol.12
2017.12/22(金)19:00 浜離宮朝日ホール
問:ジェスク音楽文化振興会03-3499-4530
http://www.susumuaoyagi.com/