旧知の仲の名匠2人がバッハで共演
現代日本を代表するチェンバロ奏者・渡邊順生が11月、バルトルド・クイケンとともに、J.S.バッハのフルート作品全曲演奏会を開く。クイケン兄弟との交流は、1970年代にアムステルダムのグスタフ・レオンハルトのもとで学んでいた頃からだそう。
「だからもう40年以上。私のオランダ留学と同じ時期に、友人の有田正広さんがブリュッセルでバルトルドについていたので、僕もしょっちゅう遊びに行ってたんです。でも、共演するのは実は今回が初めて。バッハについてはバルトルドは自分の校訂楽譜も出版するぐらい非常に熱心に研究していますから、まずバッハの作品があって、あとは言葉の要らない、音と音との対話ができると思います」
今回演奏する5曲はバッハの真作と判定されているフルート作品のすべて。この5曲がバッハの室内楽作品の非常に重要なグループを形成していると語る。
「ヴァイオリンで言えば、まず無伴奏の6曲があって、研究者の関心はともするとこちらに向きやすいのですが、一方でヴァイオリンとオブリガート・チェンバロのためのソナタが6曲あります。バッハは通奏低音ではなく、チェンバロの両手のパートとヴァイオリンのパートを3段譜で書いている——つまりこれは2人で演奏するトリオ・ソナタという形式であるわけで、それがひとつの重要なカテゴリーを形成していると言えます。もう一つ、旋律楽器と通奏低音のためのソナタというものがある(ヴァイオリンのソナタは2曲)。これはバロック期の最も一般的な室内楽の形式ですが、バッハのものはとてもユニークです。それは、旋律とハーモニーとバスの関係性が非常に独特だから。他の作曲家の作品では、バスがハーモニーの領域に属している。ところがバッハの音楽というのは、ハーモニーに対して、旋律はもちろん、バスも独立している。そこが他の人にはまったく真似のできなかったところだと思います。
フルートの場合は、無伴奏が1曲、オブリガート・チェンバロの曲が2曲、通奏低音の曲が2曲。ちょうど70分ぐらいなので、この3種類を全部、一回のコンサートで演奏できる。バッハの室内楽の縮図がいちどきに体験できるのだから、非常に面白い。にも関わらず、そういう企画はあまりなかったのです」
さらに今回は横浜で、「音楽の捧げもの」と「管弦楽組曲第2番」を演奏するコンサート(11/19 横浜みなとみらい小ホール)もあるのでこちらも楽しみだ。
出会いから40年以上で初めて実現する二人の巨匠の共演によるバッハ。もしこれを聴き逃したら…、痛すぎる!?
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2017年11月号から)
バルトルド・クイケン(フルート)&渡邊順生(チェンバロ)
2017.11/27(月)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
http://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/
※18:00〜18:20 クイケン著『楽譜から音楽へ—バロック音楽の演奏法』(道和書院)の刊行を記念した、クイケンと渡邊によるスペシャル・プレ・トークあり。