寺神戸 亮(指揮)

フランス語版で蘇る巨匠グルックの“純愛”オペラ

仏語改訂版の魅力と聴きどころ

 1995年の第1回からはや22年、日本の音楽ファンにバロック・オペラを核に躍動感溢れるその魅力を伝え続ける北とぴあ国際音楽祭。2017年は、オペラ史に一石を投じたとされる革新的な傑作、グルックの《オルフェオとエウリディーチェ》を仏語歌詞の1774年パリ版で上演する。フルートが活躍する〈精霊の踊り〉もこのパリ版ならではの名曲であり、人気のアリア〈エウリディーチェを失って〉もパリ版が今の形に仕立てた名旋律なのだ。同音楽祭を名実共に率いる指揮者兼ヴァイオリニストの寺神戸亮が、オペラの魅力をじっくりと語る。
「出身がドイツ系だけにグルックには骨太の個性を感じますが、この《オルフェ》(フランス語の題は《オルフェとウリディス》)で特に思うのは、黄泉の国から戻ってきた妻が再び亡くなったのをオルフェが悼んで歌うあの名曲〈エウリディーチェを失って〉を、グルックが敢えて長調で書いたということですね。長調と短調を一義的で捉えていないからこそ、慟哭の深さを長調で表現できる…その力量には本当に感心します。長調なのに深い悲しみと嘆きが伝わってきます」
 まさに。その悲痛の想いをさらに色濃く伝えるのもパリ版のオリジナリティなのでは?
「そうですね。イタリア語のウィーン初演版(1762)はカストラートが主役でしたが、パリ版ではテノールが歌います。グルックは職人肌でもあったからか、初演者の良さが出るように音運びをとても工夫したらしく、このアリアも初演版とパリ版で終わり方が違います。もちろん、グルック自身の音楽的な欲求もあったでしょうが、歌手の個性もよく見て書いたと思いますよ。朗唱部も少し音符を変えただけで、それはフランス風に生まれ変わっていて驚きます!」
 ちなみに、パリ版ではバレエが多いのも特徴の一つ。今回は振付で中原麻里が加わり、ダンサー勢を様々な場面でドラマに絡ませたいとのこと。
「パリ版を楽譜通りにやると、全員の喜びの合唱が終わってからバレエが15分以上も続きます。それが当時のパリの流行りであったわけですが、今は時代も違うので、舞曲の幾つかを他のシーンに移すといった再構成を行いたいと思っています。でも、音楽のカットは極力避けて、グルックの調べを皆様にたっぷりと味わっていただきたいのです」

一線の名歌手と期待の新人を揃えての上演

 今回のキャストも非常に魅力的。主役のマティアス・ヴィダルは、寺神戸が日本に紹介した名テノールである。
「マティアスさんは典型的なフランスのハイテナー、オート・コントル(Haute-contre)で、楽器で言うとオーボエ系のよく通る声の持ち主です。現代オペラも古楽系もこなすけれど、どれも付け焼刃ではなく、様式感をしっかり把握して素晴らしい表現をしてくれます。エウリディーチェ役のストゥキン・エルベルスさんはベルギーの若手。歌の実力も確かですし、チラシの写真も清楚ながら艶があり、役に相応しい感じでしょう?(笑) アムール役の鈴木美紀子さんも、フランスものに傾注するソプラノとして日本で貴重な存在です。なお、《オルフェ》はバロックから古典派に移る過渡期の傑作ですから、今回はピッチをA=415Hzに決めて、オーケストラのレ・ボレアードの面々も管楽器などを新たに用意する予定です。このオペラは本当に、古楽ファンだけではなく、19世紀以降のオペラが好きな方にもお勧めしたいですね。百聞は一見に如かず、です。グルックのストレートな音楽美をぜひご堪能下さい!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2017年11月号から)

北とぴあ国際音楽祭2017
グルック:オペラ《オルフェオとエウリディーチェ》(セミ・ステージ形式)
2017.12/8(金)19:00、12/10(日)14:00 北とぴあ さくらホール
問:北区文化振興財団03-5390-1221 
http://www.kitabunka.or.jp/

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