【会見レポ】サイモン・ラトル&ベルリン・フィル

 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の来日にあわせ、同団の首席指揮者・芸術監督のサイモン・ラトルらが記者会見を行った。会見では、2016/17シーズンにアーティスト・イン・レジデンスを務めたジョン・アダムズの生誕70年を記念した自主レーベル「ジョン・アダムズ・エディション」や、「デジタル・コンサートホール」の4K/HDRでのライブストリーミングについても説明があった。
(2017.11.22 都内 Photo:M.Terashi/TokyoMDE)

右より)サイモン・ラトル、アンドレア・ツィーツシュマン(事務局長)、クヌート・ヴェーバー(チェロ奏者/オーケストラ代表)

以下、サイモン・ラトルのコメントより。

■ベルリン・フィルと日本との関係は特別

 ベルリン・フィルと日本との関係は特別です。日本ツアーはまるで「家族に会いにきているようなもの」なのです。私にとって、このオーケストラとの来日は今回で最後になりますが、また来年、違うオーケストラ(ロンドン交響楽団)で戻ってきます。

■ベルリン・フィルの表現力の幅広さ

 私たちは、今まで披露したことのない作品は何か?と、いつも考えています。今回の日本公演では、韓国出身のチン・ウンスクの作品、ラフマニノフの交響曲第3番、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」などをとりあげます。
 ラフマニノフの交響曲は傑作にもかかわらず、私たちを含め、何故かあまり演奏されていません。そして、「ペトルーシュカ」も実はベルリン・フィルであまりとりあげることがなかった作品なのです。これらの演奏は指揮者の私にとっても特別な機会であり、聴衆の皆さんにも、このオーケストラの表現力の幅広さを体験していただけると思います。

■ユジャ・ワンに技術的な難しさは存在しない

 今回のソリストに予定されていたラン・ランが残念ながら降板してしまったのですが、ユジャ・ワンが代役をかってでてくれたのはなんとも幸運なことです。バルトークのピアノ協奏曲第2番の奏者として、彼女はラン・ランと同等に相応しいアーティストです。彼女は“ピアノ・モンスター”です。私が言う“モンスター”とは彼女のピアニスティックな能力と、アーティストとして最大級の賛辞を込めて“モンスター”だと思うからです。ピアノの端から端まで手をジャンプさせるのに、彼女の場合まったく時間を必要としません。バルトークのこのコンチェルトの技術的な難しさが彼女には存在していないのです。

■ベルリン・フィルの可能性を拡大する

 16年前にこのオーケストラの音楽監督に就任した際、私に求められていたのはベルリン・フィルの可能性を拡大するということでした。とりあげてきたレパートリーもモンテヴェルディから、昨日書き下ろされた新作までにおよびます。自画自賛に近いかたちになってしまいますが、16年前に「J.アダムスの作品を1年間集中的にとりあげる」ことなどは想像できなかったと考えています。ベルリン・フィルには偉大な伝統があると同時に、彼らは将来を見据えているのです。

■デジタル・コンサートホール

 ベルリン・フィルが既存のレコード会社に頼ることなく、「デジタルコンサートホール」のストリーミングにより、音楽を幅広い聴衆に届けることができるようになりました。自主レーベルから録音をリリースできることになったことも画期的なことです。これは私一人が考えたことではありません。団員の一人ひとりがアイディアを出しあって実現してきたのです。まさに、“ベルリン・フィルらしい”のです。このことを私はとても誇りに思っています。

■若い人のための音楽教育プログラム

 クラシック音楽を語る際に“エリート”という言葉を二度とききたくありません。この言葉が、「演奏の水準が高い」という意味で使われるのはかまわないのですが、クラシック音楽は一部の特権階級の人々のための音楽では決してないのです。このような誤解はクラシック音楽にとっても“悲劇”です。この音楽はすべての人々のためのものです。ベルリン・フィルは教育プログラムをはじめ、子供やそれほど若くない人々へのクラシック音楽の普及に力を入れてきました。
 そして、あと残り少ない任期のうちに、何をしたいかといえば、単純に「天に届くような音楽を創りつづけたい」と思っております。ベルリン・フィルの音楽監督就任前に「何百頭もの人喰いトラがいる檻をあけてしまったようだ」と就任について表現しましたが、彼らは今でも人喰いトラであり、常にお腹をすかしています。これは変わって欲しくありません。このオーケストラを聴きにくる際に“普通さ”や“おとなしさ”などを期待してはいけません。彼らの演奏する音楽は、やけどをするほどいつも刺激的なのです。そして、誰一人として演奏することを“仕事”と思っている団員はいません。私たちは、コンサートがなくなってしまい、音楽が演奏できなくなってしまったら「この世の終わりだ」と感じていつも演奏しているのです。

■ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演
2017年11月23日〜11月25日
ミューザ川崎シンフォニーホール、サントリーホール
http://www.fujitv.co.jp/events/berlin-phil/index.html