
右:清水和音 ©Yuji Hori
2021年の初共演以来、精力的に演奏活動を続けているヴァイオリニストの三浦文彰とピアニストの清水和音。それぞれハノーファー国際コンクール、ロン=ティボー国際コンクールの覇者であり、常に第一線で活躍を続けるソリストたちによるデュオは、圧倒的な技術と表現力はもちろん、自然体の会話のようなやりとりも魅力だ。
三浦「実は最初の出会いは演奏ではありませんでした。桐朋学園の機関誌での対談でしたよね。そのときの話がとても楽しくて、ぜひいつか演奏もご一緒したいと強く思ったのです」
清水「最初に二人で演奏したのは2021年に行われた東芝グランドコンサートのガラ・コンサートでしたね。そのときに演奏したのはラヴェルの『ツィガーヌ』にクライスラーの小品、そしてシューベルトのソナチネ第2番でした」
その後、ブラームスのソナタ、ベートーヴェンのソナタ全曲演奏をライブでもレコーディングでも行っている彼ら。ドラマティックでありながら知的に構築された二人のブラームスとベートーヴェンは注目を集めた。今回ヤマハホールで聴かせてくれるのはシューベルトの「3つのソナチネ」、そして「ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲 イ長調」である。
三浦「シューベルトは初共演のときにも演奏していましたし、抜粋ではいろいろな場所でご一緒してきたのです。どの曲も旋律が美しく、シューベルトらしい和声変化や繊細さなど、ブラームスやベートーヴェンとはまた違った魅力が詰まった楽曲です」
清水「今回は演奏しない『幻想曲 ハ長調』や『ロンド ロ長調』は別として、シューベルトのヴァイオリンとピアノのための作品は、いずれもそこまで技巧的に凝った作品ではありません。しかしながらシューベルトの楽曲というのは、演奏するにあたってかなり奏者を選ぶ作品だと思います。一番悩ましいのが、彼の音楽にはウィーンなまりが染みついているのです。独特のアクセントやリズム感があって、それを自然に理解して演奏できないと、シューベルトらしさが出てこない。しかも頭でいくら考えてもできるわけではないのがまた厄介なところ(笑)。その点、三浦さんはそれを自然とできてしまうのです。演奏していてとても楽しいですね」
三浦「そうですね。クライスラーなどの演奏を聴くとそのウィーンなまり的なものは強く感じますし、私自身影響されたところもあります。清水さんの奏でるシューベルトにもそれが見事に表れていて、とてもいい空気感で演奏できます。これをみなさんにお聴きいただけるのが今からとても楽しみです。そしてこれらの楽曲は木のぬくもりに包まれた空間であるヤマハホールにとても合う楽曲だと思います」
清水「三浦さんは2023年の8月からは1732年製グァルネリ・デル・ジェス『カストン』に楽器を変えられたのですが、この楽器の音色がまた素晴らしい。以前のストラディヴァリウスももちろんよかったのですが、より音の響きが広がり、ご自身の音楽を自在に表現できるようになったのではと感じます。楽器を変えられて初めてご一緒したときから“おぉ”と感動しましたね。今回のリサイタルでも、その魅力がよく伝わってくると思います」
奏者と聴衆の距離が近いヤマハホールの空間は、二人の音色はもちろん、シューベルトの親密な空気が漂う楽曲の魅力を隅々まで味わうことができるはず。極上のアンサンブルで奏でられるオール・シューベルト・プログラムをぜひ堪能してほしい。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2025年12月号より)
珠玉のリサイタル&室内楽 三浦文彰 & 清水和音 デュオ・リサイタル ―オール・シューベルト・プログラム―
2026.1/24(土)14:00 ヤマハホール
問:ヤマハ銀座店インフォメーション03-3572-3171
https://retailing.jp.yamaha.com/shop/ginza/hall

長井進之介 Shinnosuke Nagai
国立音楽大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学に交換留学。アンサンブルを中心にコンサートやレコーディングを行っており、2007年度〈柴田南雄音楽評論賞〉奨励賞受賞(史上最年少)を機に音楽ライターとして活動を開始。現在、群馬大学共同教育学部音楽教育講座非常勤講師、国立音楽大学大学院伴奏助手、インターネットラジオ「OTTAVA」プレゼンターも務める。
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