サントリー芸術財団 サマーフェスティバル2017

日本の戦前〜戦後の音楽シーンを俯瞰する意欲的な企画


 サントリー芸術財団の『サマーフェスティバル』、今夏の目玉は片山杜秀が監修する「ザ・プロデューサー・シリーズ」だ。博覧強記で知られる片山がとりわけこよなく愛してきたのが、日本の現代音楽。学生時代から足で稼いだ経験と知識は、忘れられた作品へとリスナーを導く数々の仕事へと結実している。今回、管弦楽、室内楽が各2回ずつ行われる「片山杜秀がひらく〈日本再発見〉」も、戦前から戦後に至る作曲界の流れを独自の視点から切り取るファン垂涎の内容となった。
 シリーズは「“戦前日本のモダニズム”―忘れられた作曲家、大澤壽人―」(9/3 大ホール)で幕を開ける。大正から昭和初期は“新しさ”が追求された時代で、大澤壽人(おおざわひさと)は間違いなくその代表。戦前からボストン響を指揮し、パリでは自作で高い評価を得るなど、世界で渡り合う力を身に付けた異能だったが、国内では理解を得られないまま、没後忘れ去られた。今回は代表作、ピアノ協奏曲第3番「神風協奏曲」に、交響曲第1番、コントラバス協奏曲という2曲の世界初演が加わった重厚プロを、山田和樹&日本フィルという旬のコンビ、そして福間洸太朗(ピアノ)や佐野央子(コントラバス)という気鋭の奏者をソロに迎えて取り上げる。“大澤ルネサンス”の真打となりそうな演奏会だ。
 「“戦後日本と雅楽”―みやびな武満、あらぶる黛―」(9/4 ブルーローズ)は、作曲家たちが邦楽器の可能性にチャレンジしていた70年代の雅楽のための2作品を並べることで、ストラヴィンスキー―伊福部昭の系譜につながる黛敏郎、ドビュッシー―早坂文雄に連なる武満徹という二つの極を浮かび上がらせようという企画。武満の「秋庭歌一具」が、昨年度佐治敬三賞を受賞した伶楽舎の看板曲となる一方、黛の「昭和天平楽」は初演時に大きな話題になりながら編成の特殊さから上演機会に恵まれなかった。この点でも貴重。
 「“戦後日本のアジア主義”―はやたつ芥川、まろかる松村―」(9/6 ブルーローズ)は、ヨーロッパとは違うアジア的作曲思考としてのオスティナート(反復)を素材に、それを明快洒脱に創作に反映させた芥川也寸志と、逆に反復の堆積によって混沌へとつなげていった松村禎三を対比させる。芥川は元・サントリー会長の佐治敬三と深い親交があったので、ホールのリニューアルを寿ぐ意図もあるのだろう。演奏は名匠・堤剛のチェロ、伊藤翔指揮による弦楽アンサンブルほか。
 締めくくりは「“戦中日本のリアリズム”―アジア主義・日本主義・機械主義―」(9/10 大ホール)だ。戦勝の続いた時局は、ほどなく“一億玉砕”へと傾いていく。リズミカルな反復がバーバリズムと結びついた伊福部昭「ピアノと管弦楽のための協奏風交響曲」から、マーラーを下敷きに独自の葬送音楽を紡いだ山田一雄「おほむたから」(大みたから)や重厚で重苦しい諸井三郎「交響曲第3番」に至る流れに、時代の社会的空気が読み取れるのではないか。現代曲を面白く聴かせることで定評のある下野竜也が東京フィルを振る。小山実稚恵のソロも楽しみだ。
 先人たちの作り上げてきた豊饒な世界を、全4回を通じ一線の奏者たちの演奏で体験してほしい。
 国際作曲委嘱シリーズでは、微分音や倍音を用い、まばゆいばかりの音場を出現させるオーストリアのゲオルク・フリードリヒ・ハースが特集される(9/7&9/11 大ホール&ブルーローズ)。27回目となる芥川作曲賞選考演奏会では、一昨年の受賞者・坂東祐大への委嘱作の他に、新世代の候補作3作品が続く(9/2 大ホール)。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2017年7月号から)

2017.9/2(土)〜9/11(月) サントリーホール(大ホール・ブルーローズ)
問:東京コンサーツ03-3200-9755
※サマーフェスティバルの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://suntory.jp/summer/