チャイコフスキーの協奏曲で多彩な表情を伝えたい
ヴァイオリニストの大谷康子は、今、ソロ・ヴァイオリニストとしてますます活動の幅を広げている。
「もちろん、東京交響楽団のコンサートマスターの仕事をやらせていただいた時期から平行してソロでの演奏活動をしていましたけれど、当時ソニーの社長だった故・大賀典雄さんからずっと『ソロだけにしなさい』と言われ続けていました。もう少し早く言うことを聞いておいたら海外での活躍の場も今以上だったでしょう。やりたいことをやらせていただいて、毎日、感謝です。今、自分が音楽がこんなにも好きだったのかとあらためて思います。大好きなヴァイオリンに3歳で出会った運命にも感謝しています」
Hakuju Hallでは、昨年12月から10年にわたるリサイタル・シリーズを開始した。この5月にはウィーンのムジークフェラインでのリサイタルや、ウクライナでのキエフ国立フィルとの共演の機会もあり、司会&演奏を務めるBSジャパンの音楽番組『おんがく交差点』も好評を博している。また、昨年からは公益財団法人練馬区文化振興協会の理事長として、音楽を通して思いやりのある社会づくりを目指す。もちろん、ソリストとしてオーケストラとの共演の機会も増えた。
6月27日には、ユーリ・シモノフ&モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団とともにミューザ川崎シンフォニーホールでチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を弾く。
「私はチャイコフスキーの協奏曲の第1楽章のソロの出だしにこだわりがあるんです。オーケストラから音を受け継いで、バトンタッチしてリレーするような一体感で入りたいと。そして、可憐な乙女が、日本でいうなら、引き戸を引いて『こんにちは』と言ってお話が始まる。そんなイメージで弾ければいいな、といつも感じています。若い頃は人を圧倒するような迫力で弾いていたかもしれませんが、いまでは、ピアニッシモはどこまでもピアニッシモに、ほんの少ししか聴こえないような音で弾きたい。ミューザ川崎のような良いホールではどんな弱音でも聴こえますから。強いところは宇宙の果てまで届くように、第3楽章は走り回って弾きたいくらいの感じで(笑)。テレビ番組で様々なジャンルの音楽家との共演も増えてきていることもあって、私の表現の幅が広がってきたのだと思います。音楽のいろいろな表情をみなさんにお伝えしたいですね」
モスクワ・フィルはコンドラシンの時代から大好きなオーケストラだという。
「協奏曲は、オーケストラとソリストが対峙したり、協調したり、自分の主張をしたり、リレーをしながら音楽を作りあげていくところに醍醐味がありますね。今回も、名門のオーケストラと音で会話するようなやりとりをしたいし、やれると思う。楽しみでワクワクしています」
取材・文:山田治生
(ぶらあぼ 2017年6月号から)
ユーリ・シモノフ(指揮) モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団
共演:大谷康子(ヴァイオリン)
6/27(火)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200/コンサート・ドアーズ03-3544-4577
http://www.concertdoors.com/