演出家・田尾下 哲が手がけるオペラ《セヴィリアの理髪師の結婚》

 オペラ《セヴィリアの理髪師の結婚》と聞いて、何を思い浮かべるだろう?
 
 「そんなオペラあったっけ?」
 「いやいや、単純に《セヴィリアの理髪師》と《フィガロの結婚》をまぜこぜにした新しいオペラだろ?」
 「それってあたりまえ、というか、そもそも《フィガロの結婚》のフィガロって《セヴィリアの理髪師》に出てくるフィガロだろ? であれば、セヴィリアの理髪師=フィガロ、だから、《セヴィリアの理髪師の結婚》って単に《フィガロの結婚》のことを違う言い方してるだけさ!」
 「じゃあ、ロッシーニの《セヴィリアの理髪師》は《フィガロ》でもよかったし、モーツァルトの《フィガロの結婚》はそもそも《セヴィリアの理髪師の結婚》でよかったんじゃ?」…などなど。
 昨年、突如として現れた新作オペラ《セヴィリアの理髪師の結婚》にクラシック音楽界は騒然とした。

2016年 初演公演より

◆もともと連作として書かれた『セヴィリアの理髪師』と『フィガロの結婚』

 なるほど、フランスの劇作家ボーマルシェの連作にもとづいたロッシーニのオペラ《セヴィリアの理髪師》(ボーマルシェ『セヴィリアの理髪師』第1部)とモーツァルトのオペラ《フィガロの結婚》(同第2部)にはもとより関連性があるし、それゆえ、2つのオペラになんらかの関連を持たせた作品があってもいいものである。しかし実際は違った。原作は同じ劇作家とはいえ、作曲はロッシーニとモーツァルト。それぞれの作品で同じ登場人物でも声質が違うなど、なかなか2つのオペラを関連づけさせた上演は困難なのだ。
 しかし、「上演機会が極めて少ない原作であるボーマルシェの戯曲に改めて光を当てつつ、オペラとしての音楽の魅力もあわせて表現できないものか?」と、ちょっと欲張りな発想でその困難にあえて挑戦しようとする人物が現れた。オペラに演劇にミュージカルにと、八面六臂の働きを続ける気鋭の演出家、田尾下哲である。

2016年 初演公演より

◆ありそうで、なかった・・・

 田尾下の挑戦は「伯爵夫人ロジーナが3年前の出来事を回想する形で、《フィガロの結婚》のストーリー中に《セヴィリアの理髪師》のエピソードを織り込む。回想劇として大胆に再構成し、一つの新しい作品を創り上げる」という、無謀とも言えるものだったが、昨年4月の公演は“名作の再創造”と高く評価され、早くも今年8月の再演が決まった。
 大事なアリアはそのままに、曲と曲の間の芝居部分には、演出の家田淳がボーマルシェの原作をベースにした台本(日本語)を書いた。日本語字幕もつく。戯曲にあってもオペラ化されるにあたって省かれてしまったエピソードも取り入れるなど、戯曲とオペラ、両方の魅力を味わうことができる。

2016年 初演公演より

◆新たなキャストとスタッフも参加

 昨年の公演では、新国立劇場研修所出身の期待の若手を中心に起用、若さ溢れる瑞々しい歌と演技で会場を沸かせたが、今年はさらに、ベテランの黒田博以下、与那城敬、大沼徹、醍醐園佳、嘉目真木子らも加わって、新たに音楽監督に新国立劇場オペラ音楽スタッフで指揮・チェンバロ・作曲の根本卓也を迎えるなど、一層の充実と多面な魅力を打ち出す。
 演出は田尾下が《フィガロの結婚》部分を、《セヴィリアの理髪師》部分を家田淳が担当する。
 新生“セヴィコン”に期待は高まるばかりだ。 

2016年 初演公演より

■オペラ《セヴィリアの理髪師の結婚》トレーラー

オペラ《セヴィリアの理髪師の結婚》
作曲:ジョアキーノ・ロッシーニ/ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
歌詞:チェーザレ・ステルビーニ/ロレンツォ・ダ・ポンテ
原作:ピエール=オギュスタン・カロン・ド・ボーマルシェ

構成・演出:田尾下 哲/家田 淳
台本:家田 淳
音楽監督:根本卓也

衣裳・美術:塚本行子
照明:稲葉直人
舞台監督:亘理千草

CAST 1
8月26日(土)18:00

フィガロ:大沼 徹
スザンナ:山口清子※
伯爵(セヴィリアの理髪師):糸賀修平
伯爵(フィガロの結婚):黒田 博
ロジーナ:醍醐園佳
ケルビーノ:郷家暁子
バルトロ:三戸大久
マルチェリーナ:林 よう子
バジリオ:升島唯博、森 雅史
ピアノ演奏:高田絢子/矢崎貴子

※出演者変更※
田川聡美(8/26公演・スザンナ役)は、病気療養のため代わって山口清子が出演。

CAST2
8月27日(日)16:30

フィガロ:村松恒矢
スザンナ:今野沙知恵
伯爵(セヴィリアの理髪師):山本康寛
伯爵(フィガロの結婚):与那城 敬
ロジーナ:嘉目真木子
ケルビーノ:青木エマ
バルトロ:三戸大久
マルチェリーナ:磯地美樹
バジリオ:升島唯博、森 雅史
ピアノ演奏:高田絢子/矢崎貴子

合唱:和泉聰子/大澤 遥/小藤恵理子/冨岡由里弥/林 道代/古家未希/舛田慶子

2017年8月26日(土)18:00、27日(日)16:30
イタリア文化会館アニェッリホール
(東京都千代田区九段南2-1-30 東京メトロ東西線・半蔵門線 九段下駅より徒歩10分、半蔵門駅より12分)
予定上演時間(2時間45分を予定、途中休憩1回あり)
前売 4,500円 当日 5,000円 学生3,500円
チケット予約 figaro@noteweb.jp
http://tttc.jp/sevilla2017/