大晦日の公演も最近では工夫をこらしたものが各地で増えてきたが、ミューザ川崎シンフォニーホールの「MUZAジルベスターコンサート」も毎年、楽しい企画を用意してくれている。2024年は同ホールの開館20周年を祝し、ホールアドバイザーの4人(秋山和慶、松居直美、小川典子、宮本貴奈)が集まり、秋山指揮の東京交響楽団との共演でフランス音楽の響宴となる。宮本の編曲によるミシェル・ルグラン・メドレーに始まり、松居が加わるサン=サーンスの「オルガン付き」交響曲(オケ中のピアノ連弾は小川&宮本が務める)、さらには小川が弾くラヴェルのピアノ協奏曲という魅力的なラインナップ。そして、川崎市多摩区出身の若き俊英ギタリスト・斎藤優貴がロドリーゴの傑作「アランフェス協奏曲」を披露する。その斎藤に公演への抱負を聞いた。
「今年のテーマは『パリ五輪』にちなんでフランス音楽を、ということだそうで、なぜそこにスペインのロドリーゴ? と思われた方もいると思います。スペイン的な雰囲気の溢れる作品ですが、実は1939年、パリ滞在中に作曲されたのです。特に第2楽章が有名で、ジャズにも編曲されたりしていますが、この協奏曲全体にスペインへの深い想いが詰まっていて、クラシック・ギタリストにとっては欠かせない作品となっています」
斎藤は日本ギターコンクール第1位を獲得しているが、海外でのコンクール受賞歴も驚くほどの数。2018年にはクラシック・ギター界最大のフェスティバル連盟「ユーロストリングス」のアーティストに日本人として初めて選出され、すでにヨーロッパ各地でコンサートも行っている。
「もちろん、これまでに何度も弾いてきた『アランフェス』ではありますが、弾くたびに新鮮な想いを抱きます。例えばオーケストラの響きには、実際のスペインの風景、荒涼とした大地の上に小さな林や泉があり、そこに花が咲いているような印象を与えてくれる部分もあります。アランフェスはマドリード近郊の古都ですが、当時はスペイン内戦で被害を受けていました。そうした故郷、そして戦争の時代に対してロドリーゴがパリで抱いていた想いを、特に第2楽章には感じることが出来ると思います」
秋山指揮の東響とのコラボレーションによって奏でられる名曲。サン=サーンスやラヴェルと合わせて、フランスで生まれた音楽にひたる大晦日の午後は、新たな年に向けた希望を感じさせてくれるに違いない。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2024年12月号より)
MUZAジルベスターコンサート2024
2024.12/31(火)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp