ミュージカルになったファウスト
いつも楽しい“魔法”が満載のフィリップ・ドゥクフレ。2年前は自作ベスト総集編の『PANORAMA―パノラマ』で喝采を受けたが、なんと今回はミュージカル! しかも題材がゲーテの『ファウスト』だという。
「もうひとつアルフレッド・ジャリの『フォーストロール博士言行録』も使う。神の表面積を測ろうとしている博士で、じつはこっちもファウストなんだ(フォーストロール(Faustroll)は「Faust」と「troll=北欧神話の精霊」の合成語)。ともに神の上を行こうとするところがいいよね(笑)。ミュージカルなので14人の出演者は、ダンサーも役者もサーカス・アーティストも、歌が下手な3人以外は歌う(笑)。しかもノスフェルとピエール・ル・ブルジョワというミュージシャンが生演奏する。ノスフェルは『クロコベッツ』という彼が創作した言語でも歌うんだ。意味がわからない分、世界中どこに行っても同じ程度にしか理解されない、とても国際的な言語といえるね(笑)」
歌、ダンス、映像、そして現代サーカスも活躍する。ドゥクフレはもともとサーカス学校出身で、いま話題のコンテンポラリー・サーカスの先駆けといえる。
「サーカスは、厳しい修練を積んだ特殊技能の人達の集団。僕のような人間は、彼らに新しい視点を提供し、テクニックではなくポエティックな方面から進化させているんだ。今回も、天国を表現するのにエアリエル(空中演技)が重要な役割をしているよ」
本作には女性が箱の中で踊るシーンがある。ドゥクフレは2年前に筆者とのトークで荒木経惟の「贈答品のように女性が箱に納まっている写真」について語っていた。
「そう。日本の女性は、人形に変身する特殊能力があるのかと思うくらい素敵な写真で、刺激を受けたよ。ただ僕の作品では、女性は箱から出て自由になるけどね。僕は日本の文化から大きな影響を受けているんだ」
今回は他にもオマージュのようなシーンも多い。多国籍で出演者の体型がバラバラなのはピナ・バウシュへのオマージュだそうだし、1920年代のドイツ表現主義の要素も色濃い。
「『カリガリ博士』やトリアディック・バレエとか、大好きなんだ。これらを視覚化してくれた舞台美術のジャン・ラバスや衣裳のローレンス・シャルーは素晴らしい仕事をしてくれたね」
最後にタイトルの『コンタクト』の意味を聞いた。
「歌のタイトルから取ったんだけど、権利料が高額すぎてその曲は使えなくなった。でも作品はその方向で深まっていたから、タイトルは残したんだ。だってダンスは、世界中の観客とコンタクトできるアートだからね」
しかしこれは『ファウスト』なので、「悪魔とのコンタクト」もありえるわけだが…。
「たしかに(笑)。その通りだ。でも神とだってコンタクトできる。神から悪魔まで、全ての観客に楽しんでもらえる舞台だよ!」
取材・文:乗越たかお
(ぶらあぼ 2016年10月号から)
フィリップ・ドゥクフレ カンパニーDCA『CONTACT―コンタクト』
10/15(土)19:30、10/16(日)16:00 愛知県芸術劇場(あいちトリエンナーレ実行委員会事務局052-971-6111)、10/22(土)18:00、10/23(日)14:00 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場(025-224-5521)、10/28(金)19:00、10/29(土)15:00、10/30(日)15:00 彩の国さいたま芸術劇場(0570-064-939)