METライブビューイング 2015/16シーズン後半のみどころ

注目の新制作が目白押し!

《マノン・レスコー》クリスティーヌ・オポライス(マノン)ロベルト・アラーニャ(デ・グリュー) ©Ken Howard / Metropolitan Opera
《マノン・レスコー》クリスティーヌ・オポライス(マノン)ロベルト・アラーニャ(デ・グリュー)
©Ken Howard / Metropolitan Opera
 ニューヨークのメトロポリタン・オペラを大スクリーンで体感できる『METライブビューイング』。10年目を迎えた2016/17シーズンも絶好調。今シーズン後半の4作中3本が注目の新制作だ。
 まずは《マノン・レスコー》(4月)。娼婦の要素を備えた美女マノンと、彼女に魅せられた青年デ・グリューとの絶望的な愛を描くプッチーニの出世作だ。止められない情熱のように奔流する音楽は、その後のプッチーニの諸作と一線を画す若々しいエネルギーに溢れている。新世代を代表するプッチーニ歌い、K.オポライスのマノンは必聴&必見。こちらもプッチーニに適した甘く表情豊かな声を持つ相手役R.アラーニャは、今回が初役。全身全霊を賭けた愛を、歌手生命を賭けて歌ってくれるに違いない。MET首席指揮者F.ルイージも、天性の劇的感覚で破滅的な愛のドラマへと引きずりこんでくれるはず。設定を第二次大戦中のドイツ占領下のパリに移したR.エアの演出は、METの巨大な舞台にふさわしいダイナミックなプロダクションだ。
 続いて《ロベルト・デヴェリュー》(5月)は、近年のMETで大きな話題となったドニゼッティの「チューダー朝三部作」の最後を飾る名作。いずれも処刑された王妃アン・ブーリンとスコットランド女王メアリー・ステュアートを描いた前2作に続き、いよいよアンの娘でメアリーを処刑したエリザベス女王自身がヒロインとなる。命こそ落とさないものの、若い恋人に裏切られ、逆上して彼の処刑を命じる役回りはやはり悲劇的。S.ラドヴァノフスキー演じる狂乱の場には、息を飲まされそうだ。M.ポレンザーニとM.クヴィエチェンというMETの誇る男性スター陣に加え、恋のライバルが今をときめくスター・メゾ、E.ガランチャというのも豪華。ベルカント・オペラの名手M.ベニーニの躍動感溢れる指揮も期待できる。前2作でも好評だったD.マクヴィカー演出の舞台は、歴史劇の醍醐味を味わわせてくれることだろう。
 シーズンの最後を飾る《エレクトラ》(6月)も、王家の娘が主人公。母とその情夫に愛する父を殺された姫君が、弟と組んで母に復讐する。ヒロインにつきまとって復讐をそそのかす「(亡き父の)アガメムノンの動機」の効果は、音楽劇であるオペラならでは。フランスの名匠P.シェローの遺作となったプロダクションは、ギリシャ悲劇を現代の家庭の問題としてつきつける。主役のN.ステンメ、母親役のW.マイヤーら現代を代表するシュトラウス歌いに、鋭くも美しい音楽を紡ぐE=P.サロネンの指揮と、音楽面でも最高の満足が約束されている演目だ。
 再演となるが、言わずと知れたプッチーニの名作《蝶々夫人》も大注目(5月)。METで大人気のA.ミンゲラの名プロダクション。舞台である「日本」のイメージをより抽象化し、文楽など日本の伝統芸能の要素を取り入れつつ、よりカラフルに象徴的に作り上げた舞台は、一瞬も目が離せないくらい魅力的。理想のプッチーニ・カップル、オポライス&アラーニャの表情豊かな美声で、〈ある晴れた日に〉〈愛の二重唱〉など数々の名曲に浸れることを想像するだけでうっとりする。ああ、これぞオペラの快楽!
文:加藤浩子
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年4月号から)

METライブビューイング 公式ウェブサイト
http://www.shochiku.co.jp/met