サイモン・ラトル(指揮) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ベートーヴェン交響曲全曲演奏会

ベートーヴェンに聴くラトル&BPOの集大成

©Monika Rittershaus
©Monika Rittershaus

 東京は今や世界有数の音楽都市。海外トップ・オーケストラの大型プロジェクトも珍しくなくなった。一昨年はウィーン・フィルがティーレマンらとベートーヴェン交響曲&ピアノ協奏曲ツィクルスを敢行し、来年頭にはバレンボイム&シュターツカペレ・ベルリンがブルックナー・ツィクルスを予定している。それらと並びインパクト絶大なのが、5月のラトル&ベルリン・フィルによるベートーヴェン交響曲ツィクルスだ。
 ラトルのベートーヴェンといえば、ウィーン・フィルと録音した全集が名高い。2002年、つまりベルリン・フィルに就任した年の仕事で、切れ味の鋭い古楽風の奏法をモダン・オケにアレンジしたアプローチは、今日では半ばスタンダード化している。時代をリードした解釈の一つと言えるだろう。
 前回の録音から十数年がたち、ベルリン・フィルとの関係も深まった。シューマンやブラームスといったロマン派演奏の経験も蓄積したこのタイミングでのツィクルス敢行。当然、ウィーン・フィル版とは一味違ったものを出せるという自信の表明だろう。ヨーロッパの両雄の一方を操って、今度はどんなベートーヴェン像を描いてくれるだろうか。
 このツィクルスはまた、もう一つ別の意味も持っている。ラトルは過去5回の来日で、分厚い響きと驚異のアンサンブル能力を持つベルリン・フィルをダイナミックにドライブし、私たちに深い感銘を与えてきたが、残念ながら2018年の退任を自ら決断している。もしかしたら、これがコンビとしての最後の来日になってしまうかもしれない。
 プロジェクトは10月にベルリンでスタートした後、11月にパリ、ウィーン、ニューヨークを巡回、東京がその最終地となる。すでにベルリン公演は終了、同団ブログからは高揚した気分が伝わってくる。
 「第九」の帯同歌手はみな、コンサート、オペラの両面で活躍する一線のアーティスト。ソプラノのイヴォナ・ソボトカ以外のメンバー、エヴァ・フォーゲル(メゾソプラノ)、クリスティアン・エルスナー(テノール)、ドミートリ・イワシェンコ(バス)は全ての都市の公演に登場する。
 今回のツィクルスでもう一つ注目したいのは合唱団。ウィーンやニューヨークでも現地の合唱団が起用されているが、東京公演で選ばれたのは新国立劇場合唱団だ。三澤洋史に率いられたこの合唱団は、もともとオペラ上演のために組織されたが、統率のとれた歌唱は近年、在京オケのコンサートにおいても欠かせないものとなっている。一丸となった鉄壁のアンサンブルは世界に通用するレベル、と常々思ってきたが、今回ベルリン・フィルとの共演によってそれが証明されるだろう。
取材・文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年12月号から)

2016.5/11(水)19:00 交響曲第1番・第3番「英雄」
5/12(木)19:00 序曲「レオノーレ」第1番 交響曲第2番・第5番
5/13(金)19:00 交響曲第8番・第6番「田園」
5/14(土)14:00 交響曲第4番・第7番
5/15(日)15:00 交響曲第9番「合唱付」
サントリーホール
問:クラシック事務局0570-012-666
http://www.fujitv.co.jp/events/berlin-phil
12/19(土)発売