
ロシアが誇る名門、サンクト・ペテルブルク フィルハーモニー交響楽団が8年ぶりに来日し、関東各地で4公演を行う。チャイコフスキー、ラフマニノフ、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチという、自国が生んだ大作曲家たちの代表作を指揮するのは、首席指揮者のニコライ・アレクセーエフ。このオーケストラの輝かしい歴史と、その間近で育ってきたアレクセーエフのキャリアをふり返りつつ、来日公演のききどころを紹介しよう。
サンクト・ペテルブルクフィルは1882年に創設されて以来、ロシアを代表する交響楽団としてその名を知られてきた。旧ソ連時代にはレニングラード・フィルハーモニー交響楽団と呼ばれ、伝説的な巨匠エフゲニー・ムラヴィンスキーの厳しい指導により、一糸乱れぬ合奏力と強靱な響きで、世界的な評価を得た。次いで1988年にユーリ・テミルカーノフが芸術監督兼首席指揮者に就任すると、ソ連崩壊による社会変動の激流を乗りきり、高い音楽的水準を失うことなく、色彩感豊かな響きで、新たな黄金時代をもたらすことに成功した。
この伝統を受け継ぐのが、現在首席指揮者をつとめるアレクセーエフだ。1956年、当時はレニングラードと呼ばれていたサンクト・ペテルブルクで生まれ、故郷の音楽院でマリス・ヤンソンスに学んだ。1982年にはヘルベルト・フォン・カラヤン財団国際指揮者コンクールで第1位を受賞する栄誉に浴し、その後はテミルカーノフの招きで、マリインスキー劇場で経験を積んでいる。このときからテミルカーノフがアレクセーエフ終生の師となり、2000年にはサンクト・ペテルブルクフィルの指揮者陣に迎えられた。そして2022年に師の跡を継ぎ、首席指揮者となったのである。
サンクト・ペテルブルクフィルの前回の来日は8年前の2018年のことで、このときは健康を害して来日不可能となったテミルカーノフに代わってアレクセーエフが来日、プロコフィエフのオラトリオ「イワン雷帝」などを指揮して、急場を救った。

右:若林 顕 ©hoshino
それから8年、名門オーケストラと、その本拠地に生まれ育ち、指揮者としてのキャリアを積み上げてきた指揮者との信頼関係は、さらに深まっていることだろう。
今回の日本ツアーでは、近代ロシアが生んだ4人の大作曲家の代表作が演奏される。チャイコフスキーの情熱がほとばしる交響曲第5番、哀愁の美に彩られたラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、鮮烈なリズムと響きでバレエ音楽に革命をもたらしたストラヴィンスキーの「春の祭典」、ショスタコーヴィチ最大の人気曲である交響曲第5番、以上の4曲である。
ツアー初日の小田原公演(10/17)では、ストラヴィンスキーとチャイコフスキーが演奏される。チャイコフスキーは、盛りあがること疑いなし。また前者の「春の祭典」は、特に高い演奏力と集中力が必要な大編成の難曲だけに、外来のオーケストラが演奏する機会は多くない。この曲をロシアのオーケストラの響きで聴ける、貴重な機会だ。
続く所沢公演(10/18)は、ラフマニノフとチャイコフスキーという人気作の組み合わせ。前者の協奏曲では、若林顕が力強く豊かなピアノを聴かせてくれる。
そして2日間にわたる東京公演の初日(10/20)には、ショスタコーヴィチの交響曲が登場。サンクト・ペテルブルクフィルによって初演されたという、特にゆかりの深い曲だけに、ナマで聴けることには特別の意味がある。最終日(10/21)は小田原公演と同じプログラムで、ツアーは締めくくられる。
おしまいに、あえて書くが、現代の世界情勢のなかで、ロシアのオーケストラを聴くことに抵抗を抱く方もおられるだろう。選択は自由である。しかし、どんなに遠くとも、いつの日か必ず訪れるだろう平和と友好の日々への、その道のりの第一歩となるのは、同じ人間としての共感と理解だ。音楽は、そのための架け橋になっていくと、私は信じる。
文:山崎浩太郎
(ぶらあぼ2026年10月号より)
サンクト・ペテルブルクフィルハーモニー交響楽団 来日公演
出演/ニコライ・アレクセーエフ(指揮)、若林 顕(ピアノ)★
2026.10/17(土)14:00 小田原三の丸ホール
曲目/ストラヴィンスキー:「春の祭典」
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調
10/18(日)14:00 所沢市民文化センター ミューズ アークホール
曲目/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調★
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調
10/20(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
曲目/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調★
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 二短調
10/21(水)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
曲目/ストラヴィンスキー:「春の祭典」
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調
問 MIYAZAWA & Co. info@miy-com.co.jp
https://miy-com.co.jp
※公演によりプログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

山崎浩太郎 Kotaro Yamazaki
1963年東京生まれ。演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(以上アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。
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