
日本フィルハーモニー交響楽団の第783回東京定期演奏会(9/11,9/12、サントリーホール)では、首席指揮者のカーチュン・ウォンがショスタコーヴィチの大作、交響曲第7番「レニングラード」を指揮する。この公演は当初、日本フィル桂冠指揮者兼芸術顧問のアレクサンドル・ラザレフが指揮台に立つ予定であったが、来日が叶わず、その代役として引き受けた。ラザレフが日本フィルと築いたショスタコーヴィチのレガシーに大きな敬意を抱くカーチュンだが、彼はすでに交響曲第5番、第11番「1905年」で、新たなショスタコーヴィチ像を打ち立てている。
この作曲家のオーケストレーションがもたらす圧倒的な写実性を、実直に掘り下げることで得られるリアリズムこそが、カーチュンのショスタコーヴィチ演奏のなによりの特徴である。近年、目覚ましい飛躍を遂げた日本フィルの輝かしいサウンドも、彼のアプローチに確かな説得力を与えている。
作曲家の戦争体験に基づく第7番は、そうしたカーチュンと日本フィルの演奏でこそ聴きたい作品と言えるだろう。「暴力そのものが持つ恐るべきメカニズムとそれが常態化していく様を描いている」とカーチュンが語るように、第7番は戦争の惨さをオーケストラの爆発的なエネルギーをもって伝える作品だが、同時にその音楽には戦いのなかにあってもなお、生きることを諦めない人間の強さも秘められている。もっとも静かな部分にこそ、第7番の本質があるとも語るカーチュンは、作曲家がこの歴史的モニュメントに込めた人類へのメッセージを鮮やかに浮かび上がらせてくれるはずだ。
文:八木宏之
(ぶらあぼ2026年9月号より)
カーチュン・ウォン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団 第783回 東京定期演奏会
2026.9/11(金)19:00 、9/12(土)14:00 サントリーホール
問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp

八木宏之 Hiroyuki Yagi
青山学院大学文学部史学科芸術史コース卒。愛知県立芸術大学大学院音楽研究科博士前期課程(修士:音楽学)およびソルボンヌ大学音楽専門職修士課程(Master 2 Professionnel Médiation de la Musique)修了。
2021年春にWebメディア『FREUDE』を立ち上げ。クラシック音楽を中心にプログラムノートやライナーノーツ、レビュー、エッセイを多数執筆するほか、アーティストへのインタビュー、コンサートのプレトーク、講演会なども積極的に行なっている。
https://freudemedia.com


