
ピアニスト牛田智大が2024年から続ける室内楽プロジェクト。第4弾はオール・リヒャルト・シュトラウス・プログラムで、10代から20代前半に書かれた最初期の3作に、ヴィオラのための新しい編曲が加わっている。共演は戸澤采紀(ヴァイオリン)、近衞剛大(ヴィオラ)、佐藤晴真(チェロ)。1997年から2001年生まれ、全員が20代の4人が、若き日のシュトラウスに挑む。
発端はベルリンの戸澤の自宅からかかってきたビデオ通話だった。
牛田「みんなで人生ゲームをしながら飲んでいましたね(笑)。ふとした流れから、戸澤さんがシュトラウスのヴァイオリン・ソナタがどれほど好きで、どんな思い出があるかを語り始めて。それを聞いて、彼女に引っ張ってもらったら面白そうだ、とおもったのです」
翌日には戸澤へ、そのまた翌日には佐藤へ連絡していた。当の戸澤は「素晴らしいピアニストと弾けるならぜひ、とおもっていただけなんですが、まさかこんなプログラムになるとは」と笑う。
シュトラウスは、ピアニストにとって必ずしも馴染みのある作曲家ではない、と牛田は言う。
牛田「シュトラウスの音楽的なアイディアは、ソリストではなく一種の『集合体』で演奏されることを前提としているように感じます。技術的には音数も多く複雑ですが、根底にはすごく単純で普遍的なものが流れている。書法が発達して複雑さが加わっても、根底にあるフィーリングは変わらないのではないかと」
今回のプログラムとして並ぶ初期作品群に、その想いが透けて見える。
戸澤「オーケストラの曲は役割がはっきりしていて、全体で合わさると計算された美しさになる。でもこの小さい編成では、フレーズがどこから始まって、どうつながっていくのか、ものすごく繊細にできているんです」
ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 op.18 は「まるで恋人を口説いているみたい」と戸澤。チェロ・ソナタ ヘ長調 op.6 は、牛田の希望で初稿を用いる。
佐藤「楽譜を送っていただいたら、全然違うじゃん、と(笑)。改訂稿は、初稿の難しい書法を常識的に整えていますよね。この曲はいわゆる『チェロ的』な曲ではなくて、第3楽章は僕のイメージではオーボエ。チェロという楽器を借りて、いろんな音色を表現しなければいけない曲だとおもいます」
第2楽章が見せる異様な成熟にも話が及んだ。「よくこれが書けるな、おまえいくつだよと言いたくなる」、と一同が笑う。
シュトラウスにヴィオラのための独奏作品はない。そこで近衞と牛田は、歌曲を共同で編曲することにした。旋律を移し替えるだけでなく、ピアノ・パートにあるものをヴィオラに渡したり、旋律を交換したり。
近衞「僕もまだどんな曲に仕上がるのか分かりません(笑)」
佐藤「おなじ時期の曲だけを聴くのは、演奏する側もすごく勉強になります。その時代にしかない世界観が、どの曲にも通底している。シュトラウスの初期作品だけでこれだけのコンサートが作れるというのも、なかなかないことですよね」
牛田は「僕たちはいまちょうど、シュトラウスがヴァイオリン・ソナタを書いた年とおなじくらい」と言い添えた。
戸澤「シュトラウスの若き日の衝動を、フレッシュな状態で聴いていただけるとおもいます!」
取材・文:広瀬大介
牛田智大 室内楽プロジェクト Vol.4
若き日の肖像 ~リヒャルト・シュトラウス ピアノ室内楽作品集~
2026.11/18(水)19:00 第一生命ホール
問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp
他公演
11/14(土)15:00 北九州市立響ホール
11/15(日)14:00 神奈川/大和市文化創造拠点シリウス やまと芸術文化ホール
11/19(木)19:00 新潟/長岡リリックホール
11/20(金)18:30 町田市民ホール
11/21(土)15:00 愛知/岡崎市シビックセンター コンサートホール
11/22(日)14:00 岐阜/大垣市スイトピアセンター 音楽堂
11/23(月・祝)14:00 静岡/掛川市生涯学習センター
