歌に人生を捧げた40年、多くの人にその歓びを
錦織健が10月にリサイタル

 日本のテノール歌手として圧倒的な知名度を誇る錦織健。オペラ界きってのエンターテイナーが2026年、デビュー40周年を記念したリサイタル・ツアーを開催する。錦織は1986年、26歳の年に二期会主催の《メリー・ウィドウ》のカミーユ役でデビュー。この公演は文化庁移動芸術祭として全国8ヵ所を巡回。

  「演出は栗山昌良さん、佐藤しのぶさんも出演し、ショー的な要素も入ったとてもおしゃれな舞台でした。この“デビューが日本語訳のオペレッタだった”ということは、僕のキャリアにとって大きな意味を持っています」

 現在でも彼のリサイタルでは、日本語の歌が重要な位置を占めている。しかもそのプログラムはよく知られた日本歌曲から、さだまさしやいきものがかりといったJ-POP、さらにはアニソンまで、実にバラエティに富んでいる。これは彼がオペラ界のみならず、『THE 夜もヒッパレ』や『NHK紅白歌合戦』などテレビの世界でも大活躍してきたことと無縁ではないだろう。

  「僕はリサイタルこそがいちばんのマーケットリサーチの場だと考えているんですが、お客様の反応を見ると、明らかに日本の歌が喜ばれていることがわかる。そこから、リサイタルの前半を日本の歌で構成する、という現在のスタイルが出来上がりました。ただ、オペラ歌手が日本語で歌うと“ダサい”と言われないように、ということには注意を払っています。曲ごとに発声を変えたり、時にはベルカントではない歌い方も使います。例えば瀧廉太郎〈荒城の月〉では、讃美歌的な歌唱法をベースに、詩の内容に合わせてコーラスごとに歌い方を変えています」

 その〈荒城の月〉を含め、今回のリサイタルも日本語の歌がピックアップされているが、特に注目なのは田中公平作曲のアニメ『ハーメルンのバイオリン弾き』の主題歌〈未完成協奏曲〉ではないだろうか。

  「これは僕がオリジナルの歌い手なんです。オペラ歌手でオリジナル曲があるのってすごいことじゃないですか。だから作曲の田中公平さんにリサイタルで歌う許可をいただいて、ピアノの多田聡子さんにピアノ版に編曲してもらいました」

 錦織といえば学生時代にバンドを組んで歌っていたほど、ロック好きでもある。中でもクイーンは大ファンで〈ボヘミアン・ラプソディ〉は彼の持ち曲のひとつ。もちろん今回のプログラムでも欠かせない1曲だ。「歌に影響があることは一切したくない」というほど歌に人生を捧げ続けて40年。そのバイタリティと煌めくオーラを浴びに、ぜひあなたもコンサート会場に足を運んでほしい。

取材・文:室田尚子

(ぶらあぼ2026年8月号より)

アフタヌーン・コンサート・シリーズ 2026-2027
錦織 健 テノール・リサイタル
2026.10/8(木)13:30 東京オペラシティ コンサートホール
問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212

https://www.japanarts.co.jp
※リサイタル・ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。


室田尚子 Naoko Murota

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京科学大学・昭和音楽大学非常勤講師。NHK-FM「オペラ・ファンタスティカ」レギュラー・パーソナリティ。オペラを中心にアーティストのインタビューや演奏会の紹介記事、エッセイなどを手がけるほか、ミュージカル、ロック、少女漫画などのジャンルでも執筆活動を行なっている。著書に『オペラの館がお待ちかね』(清流出版)、共著に『ヴィジュアル系の時代 ロック・化粧・ジェンダー』(青弓社)など。