
北村陽は少年期から類い稀な才能を発揮した“神童チェリスト”だった。そして今、堂々たる“大人の音楽家”になってきた。もはや彼は豊麗・豊潤な音色で真っすぐな音楽を奏でる芯の通った名奏者だ。こうした成長を遂げる神童はある意味珍しい。2023年ブラームス国際コンクール第1位ほか数々の賞を受賞した北村は、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コースで堤剛、山崎伸子らに師事し、23年秋からベルリン芸術大学にてイェンス=ペーター・マインツに学んでいる。こうした研鑽を続ける姿勢も成長を大きく後押ししているに違いない。
この3月彼は、“弦楽器の目利き”たるTOPPANホールで、実質上初の本格的リサイタルを行う。当ホールでは、24年4月のランチタイムコンサート・スペシャルで無伴奏の難曲を快奏しているが、今回は音楽性やセンスがさらに問われるピアノとのフルサイズ公演。それだけにプログラムがまた凄い。前回の続きを思わせるサーリアホの無伴奏作品で始め、快活さと陰りが交錯するショスタコーヴィチ若き日の名作=チェロ・ソナタ、チェロの世界の華クレンゲル、近年演奏機会が増えてきたN.ブーランジェの作品を経て、機知とシリアスさを併せ持つプーランクのソナタに至る近・現代中心の内容には、北村の意思と個性が漲っている。
ベルリン芸術大学等で多くの奏者のパートナーを務めている、すなわち北村の演奏を熟知しているピアニスト、薗田奈緒子の共演も心強い限り。これは、神童から真の名手へと変貌するアーティストの「現在地」を深く知り得る、実に興味深いコンサートだ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2026年2月号より)
北村 陽(チェロ)
2026.3/20(金・祝)18:00 TOPPANホール
問:TOPPANホールチケットセンター03-5840-2222
https://www.toppanhall.com
